研究実績の概要 |
前年度の研究において、増殖因子EGFとAmphiregulin (AREG) が不死化乳腺上皮細胞MCF10Aをそれぞれ間葉様細胞、上皮様細胞の形質に保つことを見出した。本年度は、2次元培養によって生み出された細胞集団が果たす生理的意義を明らかにするため、両細胞集団を用いて、3次元培養における表現型解析を行った。EGF、AREGそれぞれの存在下で2次元培養した細胞をマトリゲル上で培養し、腺房様構造をラミニンVとゴルジ体マーカー(GM130)による免疫染色によって観察した。構築された腺房様構造(acini-like structure)そのものについては両群で差は認められなかった。しかし興味深いことに、AREG培養で得られる上皮様細胞はほぼ100%の細胞が腺房様構造を構築しており、EGFで誘導された間葉様細胞と比較して、構築効率が著しく上昇していた。このことからAREGは乳腺内腔細胞の前駆細胞への性質変換に関与していることが示唆された。また2次元培養において、培地中のEGFとAREGを切り換えると、間葉様細胞と上皮様細胞の性質を複数回に渡って変換できることを見出した。このことは細胞外シグナルが乳腺細胞の可塑性を担うことを示唆する。一方で、Interleukin-6 (IL-6), Interferon-gamma (IFNg)については、2次元培養した細胞集団の表現型に影響を与えなかった。したがってこれらについては立体構造の構築過程において、EGF受容体シグナルに干渉し、腺房の形成に影響を与えることが考えられた。
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