クロマチン再構成因子複合体はATP依存性にヌクレオソーム構造を変換し種々の転写因子が、DNAへ結合しやすくする、あるいは逆に結合しにくくすることで転写を制御し細胞周期に密接に関係している。ARID1Aはクロマチン再構成因子複合体のDNA結合機能を受け持つ胃因子である。2010年末に神経堤由来腫瘍以外の悪性腫瘍で初めてとなる卵巣明細胞癌でのクロマチン再構成因子のARID1A変異が発見され、引き続いて胃癌、原発性肝臓癌、膀胱癌、大腸癌、肺癌などでの遺伝子変異が、報告されてきた。しかし、遺伝子変異が報告されているものの、異常な発現遺伝子産物が、どのように腫瘍発生に関係しているかについては未解明であり、その下流に存在する分子メカニズム、制御のためのターゲットとなりうる分子群は明らかになっていない。我々は変異型ARID1Aに関連して遺伝子発現が増強する膜たんぱく質のトランスジェニックマウスをモデル動物を作製し変異型ARID1A発現により変化をうける遺伝子群(下流の遺伝子群)を網羅的に解析し、腫瘍と関係する遺伝子産物を検出した。 作出したトランスジェニックマウスでは、皮膚付属器腫瘍が高発現し、クロマチン再構成因子複合体異常と皮膚付属器腫瘍の関連性が、国内外で初めて明らかになった。 また、網羅的遺伝子解析で、ARID1Aの部分的機能障害が、elonginAの遺伝子発現異常と関係することが明らかになった。 これらの知見は、クロマチン再構成因子機能不全がもたらす新たな分子経路を示しているものと考える。
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