研究課題
(1)皮膚創傷治癒におけるBLT2の役割これまでに、皮膚の創傷時に生理活性脂質12-HHTが産生されること、またアスピリンの投与により12-HHTの産生が阻害されること、12-HHTの受容体であるBLT2の欠損マウスやアスピリンの投与で創傷治癒が遅延することを明らかにしてきた。更に、組織学的解析から、BLT2欠損やアスピリン投与による創傷治癒の遅延は、主に表皮ケラチノサイトの修復遅延によることが明らかとなった。そこで、BLT2過剰発現HaCaT細胞(ケラチノサイト細胞株)やマウス初代培養ケラチノサイトを用いた解析を行い、12-HHT/BLT2シグナルが転写因子NFκBを活性化してTNFαの転写を亢進させること、更に分泌されたTNFαがオートクライン/パラクライン的に作用してMMP9の発現を上昇させてケラチノサイトの動きを促進させることを明らかにした。また、以上の内容の論文はJEMに受理され、現在印刷中である。(2) 上皮のバリア機能におけるBLT2の役割BLT2は主に上皮細胞に発現しており、免疫細胞での発現は非常に低い。これまでに、卵白アルブミンの経皮的反復投与よるアトピー性皮膚炎モデルを行い、BLT2欠損マウスで抗体価が亢進する傾向が得られたことから、BLT2は皮膚のバリア機能に寄与する可能性が示唆された。そこで、BLT2過剰発現MDCK細胞を用いて細胞間接着における役割について解析した。細胞をコンフルエントにまで培養した後、培地中のカルシウムを除いて細胞間接着を消失させ、再びカルシウムを添加した時の細胞間抵抗値(TER)の変化やそのときの遺伝子発現変動を網羅的に調べた。その結果、BLT2過剰発現細胞では12-HHT依存的により早く高値までTERが上昇すること、タイトジャンクションやデスモソーム形成に関与する遺伝子群の発現が上昇することが明らかとなった。
2: おおむね順調に進展している
皮膚の創傷治癒におけるBLT2の役割解明については、生理活性脂質12-HHTが皮膚の創傷時に産生され、皮膚表皮ケラチノサイトに発現している受容体BLT2に作用し、ケラチノサイトの動きを促進させることで創傷治癒を促進させることを明らかにした。また、シクロオキゲナーゼ阻害剤であるアスピリンの服用で、創傷治癒が遅延することが知られていたが、その作用機序がアスピリンによる12-HHTの産生阻害であることを明らかにした。更に、BLT2アゴニストの塗布により、ケラチノサイトの動きが亢進し、創傷治癒が促進することが明らかとなった。これまでに、ケラチノサイトに作用する有効な治療薬は開発されていないことから、BLT2は難治性の糖尿病性皮膚潰瘍や褥瘡の治療薬となり得るのではないかと期待される。以上の研究内容はNatureに投稿して2回のリバイス実験を行ったものの不採択となった。しかし、リバイス時に要求された実験を行うことで、より完成度の高い内容となり、The Journal of Experimental Medicineに受理され現在印刷中である。一方、上皮のバリア機能におけるBLT2の役割については、12-HHT/BLT2シグナルがタイトジャンクションやデスモゾーム形成に関与する遺伝子群の発現を上昇させることを明らかにした。今後、これらの遺伝子の発現調節のメカニズムを明らかにする予定である。
上皮のバリア機能におけるBLT2の役割を明らかにする目的で、BLT2の下流の細胞内シグナルを明らかにする。具体的には、これまでにタイトジャンクションやデスモソーム形成に関与する遺伝子群が、12-HHT/BLT2シグナル依存的に発現上昇することを明らかにしているため、各種阻害剤やsiRNAなどを用いてBLT2とこれら遺伝子群の転写を繋ぐ因子を同定する。更に、BLT2欠損マウスの上皮細胞(皮膚表皮細胞/腸管上皮細胞/気道上皮細胞など)において、これらの接着因子の発現低下や接着構造に異常がないか観察する。皮膚感染防御におけるBLT2の役割を明らかにする目的で、BLT2過剰発現HaCaT細胞やBLT2欠損マウスの初代培養ケラチノサイトでDNAマイクロアレイ解析を行い、感染防御遺伝子群(抗菌ペプチド、炎症性サイトカインなど)の発現に変化がないか観察し、その発現調節のメカニズムについて明らかにする。
皮膚創傷治癒におけるBLT2の役割についての成果をまとめるにあたって、1年半にもおよぶリバイス実験を行うことでより完成度の高い論文として仕上がったものの、上記項目についての実験を優先して行ったため、その他の項目についての研究は順番を入れ替えることとなり、次年度使用額が生じることとなった。次年度へ繰り越した費用は、次年度に行うこととなった研究の為の物品費(siRNA/各種阻害剤/DNAマイクロアレイ解析用試薬など)に全て使用する予定である。翌年度請求分の内訳に関しては、当初予定していた通り、物品費に100万円および成果報告のための旅費に30万円使用する予定である。
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FASEB J
巻: 27 ページ: 3306-3314
10.1096/fj.12-217000.
http://plaza.umin.ac.jp/j_bio/Biochem1/Top.html