研究課題/領域番号 |
24590388
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 熊本大学 |
研究代表者 |
桑原 一彦 熊本大学, 大学院生命科学研究部, 准教授 (10263469)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 非遺伝性散発性乳癌 / マウスモデル / DNA傷害 / mRNA核外輸送 |
研究概要 |
1)正常乳腺上皮細胞におけるGANP発現上昇の意義 GANPはリンパ組織の胚中心で高い発現を認め、その理由として転写共役型遺伝子傷害を保護するためであることを最近見出した。乳腺上皮でGANPの発現が高い理由としてエストロゲンの関与を考えたが、ヒト乳癌細胞株MCF7を用いた解析ではエストロゲン刺激前後でGANPの発現に変化を認めず、他の外的刺激(紫外線、放射線など)でもGANPの発現に変化は見られなかった。乳腺上皮においてもGANPの発現が遺伝子傷害の抑制に関与する可能性を考え、MCF7をエストロゲンで刺激後、コメットアッセイを行った。GANPをノックダウンしたMCF7はコントロールの細胞と比較してエストロゲンによる遺伝子傷害が増加し、逆にGANPを過剰発現させた細胞はコントロール細胞に比べて遺伝子傷害が減少した。 2)乳腺上皮細胞の増殖、分化に及ぼす「転写共役型DNA傷害」の影響 正常マウスと乳腺特異的GANP欠損マウスを妊娠させて乳腺組織を摘出し、組織学的解析を行った。1)の結果から妊娠時のエストロゲンによる遺伝子傷害が乳腺組織に影響を与える可能性が考えられた。妊娠後期、出産直後、出産後1週間、出産後2週間で乳腺を摘出し、ヘマトキリン-エオシン染色による組織解析を行った。その結果、乳腺特異的GANP欠損マウスでは乳腺構造の発達障害が起こることが判明した。 3)GANPが制御する乳癌発症に関与する分子の確定 これまでにGANP結合分子の同定を行ったが、現時点でDNA修復、細胞周期、ゲノム安定性などに関与する分子は同定されていない。そこで、MCF7を用いたganpノックダウンによりGANPの発現を低下させ、核外輸送が障害されるmRNAを網羅的遺伝子発現プロファイルにより解析した。数十種の候補が得られているが、実際にmRNA核外輸送が障害されているかに関しては平成25年度に解析する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1)正常乳腺上皮細胞におけるGANP発現上昇の意義 交付申請書では乳腺組織でGANPが発現上昇する外的刺激を明らかにすることを記載したが、GANPの発現を誘導する外的刺激は明らかにできていない。しかし、免疫系の解析による情報からGANPの発現が上昇する意義はDNA傷害を抑制することであり、実際MCF7を用いた解析でこの点を明らかにすることができた。乳腺の発達にはエストロゲンが重要であり、このホルモンはDNA傷害を誘導することが種々報告されている。我々の結果は細胞株を用いた解析ではあるが、乳腺上皮でGANPの発現が上昇する意義はエストロゲンが誘導する遺伝子傷害が過剰に起こらないようにしているためと思われる。 2)乳腺上皮細胞の増殖、分化に及ぼす「転写共役型DNA傷害」の影響 正常マウスと乳腺特異的GANP欠損マウスの乳腺組織の解析からエストロゲンによる遺伝子傷害がどのように乳腺組織に影響を与えるかを解析した。出産直後、出産後1週間、出産後2週間で乳腺を摘出し、ヘマトキリン-エオシン染色による組織解析を行った。その結果、乳腺特異的GANP欠損マウスでは乳腺構造の発達障害が起こることが判明し、この異常は以前報告された乳腺特異的Brca1欠損マウスの表現型と類似していた。 3)GANPが制御する乳癌発症に関与する分子(群)の確定 交付申請書には遺伝子発現プロファイル解析のために、ノックダウンに加えて過剰発現株の作製を記載した。これまでの解析結果からGANPのヒストンアセチル化ドメインの乳癌発症に関与するかは明確になっていないため、24年度はノックダウン細胞を使った解析のみを行うことに変更した。
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今後の研究の推進方策 |
2)乳腺上皮細胞の増殖、分化に及ぼす「転写共役型DNA傷害」の影響(平成24年度の続き) GANPは出芽酵母TREX2複合体の一員SAC3の哺乳動物相同分子だが、TREX2の他の構成分子THP1の哺乳動物相同分子PCID2の機能も我々は明らかにしている。PCID2はGANPと異なりMAD2 mRNAの核外輸送に関与し、B細胞特異的PCID2欠損マウスでは高度なB細胞分化障害が起こる。この表現型にも「転写共役型DNA傷害」が関与することが考えられる。そこでWap-CreマウスとPCID2-floxマウスを交配して乳腺特異的PCID2欠損マウスを作成し、乳腺特異的GANP欠損マウス同様妊娠させたマウスから乳腺組織を摘出し、組織学的解析を行う。 3)GANPが制御する乳癌発症に関与する分子の確定(平成24年度の続き) 平成24年度に行ったマイクロアレイの結果の解析を詳細に行い、候補遺伝子の発現が確かに変化することをPCRで確認する。候補遺伝子を、DNA修復、細胞周期、ゲノム安定性に関与するか、これまでに報告されている乳癌感受性遺伝子に含まれるか、などの点から絞り込む。 4)ヒト乳癌臨床検体におけるGANPタンパク発現低下の原因の探索 我々はこれまでに92例の非遺伝性乳癌の検体を抗GANP抗体により免疫染色し、リンパ節転移を伴う悪性度の高い癌は正常乳腺や上皮内癌と比較してGANPの発現が著しく低いことを見出した。最初にganp mRNAの発現レベルが低下しているのか、をリアルタイムPCRで解析する。臨床検体でGANP同様にganp mRNAも発現と悪性度が逆相関する場合は、ヒトganpプロモーター領域のメチル化の有無などの解析を行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成25年度の研究費の総額は130万円で、その内訳として物品費80万円、旅費30万円、その他20万円を予定している。物品費としては、培養用プラスチック製品(フラスコ、遠心用チューブ、培養用ディッシュなど)、リアルタイムPCR用試薬、分子生物学的実験のための種々の試薬(PCR用試薬、シークエンス用試薬、ライゲーションキットなど)に60万円を充てる予定で、乳腺特異的PCID2欠損マウスの作成及び解析を行うため、熊本大学動物センターにおける動物飼育費用にも20万円は使用する予定である。得られた成果発表の場として日本がん分子標的治療学会(京都)、日本癌学会(横浜)、日本免疫学会(千葉)での発表を予定しており、旅費はそれらの参加費用に充てる。その他の経費はサンプルの運搬費、文書等の連絡費などにあてる予定である。
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