研究課題
主要な癌幹細胞マーカーの一つである接着分子EpCAMを介したシグナルによる癌細胞の代謝調節機構を明らかにし、その阻害による治療法を考案することを目的に研究を行った。EpCAMを高発現する大腸癌HCT116細胞においてRNA干渉(RNAi)を用いてEpCAMの発現抑制を行った。その結果、作成したRNAiが、HCT116細胞において効果的にEpCAMの発現を抑制できることを確認した。そこで次に、EpCAMの発現が細胞内の代謝に影響を及ぼしているかを検討する目的で、、HCT116細胞にコントロールRNAiおよびEpCAMを標的とするRNAiを導入し、細胞内の代謝物質を網羅的に解析するすることが出来るメタボローム解析を行った。その結果、HCT116細胞においてEpCAMの発現抑制は、解糖系の分枝路であるペントースリン酸経路における代謝物質を有意に減少させることが分かり、接着分子EpCAMはペントースリン酸経路の活性を制御することが示唆された。ペントースリン酸経路は、細胞内の還元状態の維持に関わる反応を触媒する補酵素であるNADPHの主要な産生経路であり、本経路が活性化している癌細胞では酸化ストレスに対する抵抗性が亢進していることが知られている。今回の検討の結果から、EpCAMの発現抑制は、癌細胞のペントースリン酸経路を特異的に抑制することでNADPHを減少させると考えられた。そのため今後、接着分子EpCAMが、ペントースリン酸経路をどのようなシグナルを介して制御しているのかを明らかにしていくと共に、EpCAMを高発現する癌細胞における糖代謝機構を標的とした新規治療ターゲットを探索していくことが出来るようになった。
2: おおむね順調に進展している
接着分子EpCAMの発現が癌細胞の代謝に影響を及ぼすと仮説を立て、これまで本研究課題を推進してきたが、メタボローム解析という実験結果にバイアスの掛かりにくい実験手法を用いて、EpCAMの発現抑制が、実際に癌細胞の代謝に影響していることを明らかにすることが出来た。このことから、本研究課題における重要な仮説の一部が実証されたと考えられる。さらに今後、癌細胞の代謝のうち、とくにペントースリン酸経路に着目して研究を推進していくことで、研究の効率化が図れるようになったため。
接着分子EpCAMによる癌細胞の代謝制御に重要な酵素およびシグナルについて解糖系やペントース経路を中心に解析を行い同定する。また、EpCAMがペントースリン酸経路の活性化を引き起こし、NADPHの産生を亢進を誘導することで、癌細胞の酸化ストレス抵抗性を亢進させているかについて検討を行う。さらには、EpCAMの発現抑制や特異的抗体が、癌細胞に酸化ストレスを誘導する抗がん剤の効果を増強する作用があるかについて調査し、接着分子EpCAMを介したシグナルによる癌細胞の代謝調節機構を標的とした新規治療法の開発の可能性を検討する。
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すべて 雑誌論文 (5件) (うち査読あり 5件) 学会発表 (3件) 備考 (1件)
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