本研究では、主要な癌幹細胞マーカーの一つであるEpCAMが癌幹細胞の細胞内代謝に与える影響について解析し、その阻害による癌幹細胞特異的治療法の立案を目的として行った。 前年度に行ったメタボローム解析の結果から、EpCAM特異的ノックダウンによって癌細胞における重要な抗酸化物質であるグルタチオンの還元に必要なNADPHの産生に関わる経路であるペントース経路の著明な低下が認められることが分かった。そこで本年度は、EpCAM特異的ノックダウンが、グルタチオン合成を阻害する薬剤の効果を亢進させるかについて調査を行った。その結果、EpCAMをノックダウンした細胞においては、スルファサラジン感受性が亢進していることが示された。そこで次に、EpCAMがどのようにペントース経路を制御するのかを明らかにするため、ペントース経路への流入において最も重要な酵素であるペントース-6-リン酸デヒドロゲナーゼ(G6PD)の発現に及ぼす影響を検討した。2種類のEpCAM特異的RNAiを用いたノックダウンにより、G6PDの発現低下が生じることが分かった。このことから、EpCAMはG6PDの発現を制御することによりペントース経路を活性化していることが示唆され、EpCAMを介したG6PDの制御機構が、EpCAM陽性癌幹細胞を特異的に標的とする癌治療のための新たな分子標的となり得ると考えられた。
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