研究課題/領域番号 |
24590393
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研究機関 | 日本医科大学 |
研究代表者 |
岡本 研 日本医科大学, 医学部, 准教授 (60267143)
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研究分担者 |
草野 輝男 日本医科大学, 医学部, 助教 (30434129)
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キーワード | キサンチン酸化還元酵素 / 活性酸素 / 一酸化窒素 / 抗痛風薬 / 虚血再灌流障害 |
研究概要 |
前年度に引き続き、タンパク質の構造に基づくXORによる水酸化反応機構と薬剤の開発法の検討を行った。タンパク質の立体構造、尿酸生成反応機構の詳細をX線結晶構造解析にて検討し解明し、タンパク質の立体構造に基づく阻害剤の開発法を検討した。蛋白構造に基づく強力な阻害剤においてバクテリアおよび哺乳類酵素で作用の大差を見出し分子動力学的解析を用いてその理由の解明を行っている。新規XOR阻害剤開発の分子基盤を確立するため、酵素反応機構、既存の阻害剤の阻害機構の詳細解明を行った。アロプリノールは基質ヒポキサンチンのアナログであり、痛風治療薬として40年来使用されている化合物である。我々はアロプリノールの代謝物オキシプリノールとXORの複合体結晶構造を解明することで、阻害機構を解明した。オキシプリノールは還元状態の活性中心モリブデン原子と共有結合する反応中間体類似体を形成し、強固な阻害を示すことがわかった。さらに複合体構造は下に述べる基質結合モード決定の際のよいモデルとなった。この複合体はモリブデンの酸化とともに解離することを確認した。このことはモリブデンの酸化に伴う経時的な阻害活性の低下を意味している。なお、XORの天然の基質であるキサンチンの結合様式と基質の活性化機構には異なるモデルが提唱されており、論争があった。このことは酵素学的な興味というだけではなく、阻害剤設計の点からも重要な論点であった。我々は還元状態でのXOR-尿酸複合体の結晶構造を決定することで、キサンチン水酸化の反応中間体を直接観察することに成功した。以前に行った実験結果と合わせ、酵素反応機構、水素結合ネットワークを介した基質活性化機構を明らかにした。さらに血管拡張因子であるとともに、ラジカルとして高い反応性を持つ一酸化窒素とXORの生成物である活性酸素との反応、病態生理についても論文発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
酵素反応機構の解明と、XOR阻害剤とタンパク質分子の相互作用の解析はひと通りのまとまりを得た。これを受けて、新規XORによる神経細胞変性に対する保護作用の評価を行った。心肺停止状態を模倣した重度の全脳虚血再灌流モデルマウスの脳神経細胞ダメージをキサンチン酸化還元酵素阻害剤が軽減させ得るか評価した。キサンチン酸化還元酵素阻害剤は阻害機構の異なるアロプリノールとフェブキソスタットを用いて比較した。マウス両総頸動脈および脳底動脈をマイクロクリップで14分間閉塞させた後に血液再灌流させ、4日後に脳を摘出し組織標本とした。Nissl 染色で海馬 CA1、CA2 領域の残存神経細胞数を計測したところ、未手術群と比較して顕著な神経細胞の減少を確認できた。しかしアロプリノールとフェブキソスタット共に全脳虚血再灌流に伴う海馬神経細胞の脱落を抑える傾向はあったものの、有意差は確認できなかった。脳における XOR の発現量、活性を解析したところ、非常に低く薬剤の直接の効果が理由と考えられた。以上の結果は英文論文として出版を行った。今後の研究としては、全脳虚血マウスの脳組織でダメージを受けている分子の同定と経時変化、抗活性酸素剤による脳保護効果の検討を行っている。また活性酸素ストレス評価モデルマウスの長期観察が終了し、ストレス評価モデルマウスを用いて上記脳虚血再灌流障害を作成し、スーパーオキサイドアニオンの病態への影響を詳細に評価することが可能となった。
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今後の研究の推進方策 |
XOR由来O2-の臓器に与える長期的影響の観察 野生型XORをノックアウトし、O2-超産生変異酵素(W338A/F339L)によって置換されたトランスジェニックマウス(wt-knockout/mutant-knockin (XO-01)について、全脳虚血-再灌流処置を行い、各臓器でのXOR発現量の差、酸化ストレスマーカーと考えられているGST、NQO1、TRX、HBP23などの酵素群、抗抗酸化作用に働く転写因子Nrf2、Keap1、NF-κB、慢性心疾患マーカーであるBNPの発現量をmRNA定量により臓器ごとに観察する。酸化ストレスを受けた結果として生じる核酸の誘導体、8-oxoグアニンの定量を抗8-oxoグアニン抗体を用い行い、またカルボニル化したタンパク質の検出を同様の抗体を用いた手法により検出する。測定にはキット類を用いる。その他必要な器具類は揃っている。あわせて組織中のXOR活性、プリン代謝物の抽出と定量を行い、プリン代謝の変動の有無を観察する。マウスの寿命(2~3年)を考え、本項目は次年度以降も継続する。臓器の検体をDNAアレイによる解析を行ない、コントロール群、活性酸素超産生モデルマウス群とで、mRNA量の異なる遺伝子を見出し、傾向を解析する(解析進行中)。変動のあった遺伝子群について抗痛風薬フェブリク、アロプリノール投与による影響を観察し、各種活性酸素障害に対する防護作用を検討する。
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次年度の研究費の使用計画 |
昨年度に行う予定であった実験に使用するマウスの納入が一部遅れ、実験が26年度になった。このため一部支払が予定より少額となった。またウエスタンブロッティングに使用する2次抗体の一部が輸入元で欠品となり、納品が26年度となったため支払い額が減少した。 納入の遅れたマウス、2次抗体は現時点で納入されている。昨年度に予定していた実験を本年度に行える。昨年度からの戻入れ額は上記物品の購入に当てる。
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