研究課題
基盤研究(C)
アルツハイマー病(AD)は加齢に伴い増加する神経変性疾患であり、高齢化が急速に進む本邦において現在約100万人の患者数が25年後には約200万人に倍増すると試算されており、その予防法・治療法の開発は喫緊の社会的課題となっている。本研究の目的は、最近申請者らが見出したAD脳で生じている神経毒キノリン酸産生を伴うトリプトファン(Trp)代謝異常のアミロイド代謝に与える影響を解析し、ADの予防法や治療法の開発に資する新たな科学的基盤を提供することにある。これまでに申請者らはキノリン酸のマウス海馬内投与でアミロイドβペプチド(Aβ)が数倍に増加すること、そして本増加が反応性アストロサイトに因ることを免疫組織学的に明らかにし、実際マウス胎児脳由来の培養アストロサイト(静止型)が炎症性刺激により反応性アストロサイトに変換することでAβ産生能を獲得することを証明した。本年度はこのアミロイド代謝変化の分子機構を解明するために、静止型から反応性への転換に伴うAβの産生と分解に関与する酵素群及びアミロイド前駆体蛋白(APP)の発現レベルの変動を生化学的に解析した。その結果、Aβ産生の増加はアミロイド前駆体蛋白及びAβ切り出し酵素βセクレターゼの発現増強とAβ分解であるネプリライシン分解酵素の発現低下によってもたらされていることを明らかにした。
2: おおむね順調に進展している
当初、平成24年度に実施する研究計画としてマウス海馬内へのキノリン酸投与で増加する反応性アストロサイトの誘導因子(炎症性サイトカインを想定)の同定を予定していた。しかし、マウス海馬内へのキノリン酸投与の技術的習得に(担当、奥野海良人研究員)想定以上の時間を要したため、平成25年度に予定していた研究(反応性アストロサイトによるAβ産生分子機構の解明)を優先させ、研究実績の概要に記載したような成果を上げることができたため。また、脳内投与の技術的課題も解決できたため。平成25年度にキノリン酸投与で誘導される内在性アストロサイト誘導因子を同定する予定である。
申請書らは免疫組織学的解析及び生化学的解析で示すように神経毒キノリン酸のマウス海馬内投与により、神経細胞の傷害が引き金となって、まず活性化ミクログリア(Iba1陽性細胞)が約1週間後に動員され、それに引き続きアミロイド前駆体蛋白(APP)を発現した反応性アストロサイト(GFAP陽性細胞)が誘導されることを明らかにしている。活性化ミクログリアはTNF-αやIL-6等の炎症性サイトカインを含む炎症性メディエーターを産生する。また、ある種の炎症性サイトカインは静止型アストロサイトを刺激し反応性アストロサイトに変換することが知られている。従って、キノリン酸投与で動員される活性化ミクログリアがこれらのメディエーターを産生して反応性アストロサイトを誘導していると予想される。その因子を以下の手順で同定する。1)キノリン酸の海馬内投与後、継時的に海馬組織を採取し抗体アレイ法(40種類の炎症関連サイトカインの測定可能なInflammation antibody array)により増加する炎症性メディエーターを同定する。2)1)で同定したメディエーターをマウス海馬から調整した静止型アストロサイトに添加し反応性アストロサイトへの転換をin vitroで検証し、さらに海馬内に直接投与し反応性アストロサイトの誘導をin vivoで検証する。3)1)で同定したメディエーターに反応性アストロサイト誘導能が見出せなかった場合、抗体アレイでカバーできなかった因子の存在が考えられる。この場合は、キノリン酸投与後の海馬組織抽出液中にその因子の存在を検討し、各種クロマトグラフィーによる精製純化した後、LC-MSを駆使して生化学的な同定を試みる。
研究費の大半は消耗品の購入に充てる。その主な内容は、マウス、抗体アレイ(Inflammation antibody arrray)(平成25年度研究計画の実験1)、マウス、子牛血清、培養用消耗品(培養皿など)(平成25年度研究計画の実験2)、マウス、蛋白精製用カラム(平成25年度研究計画の実験3)。平成25年度研究計画実験1)キノリン酸の海馬内投与後、継時的に海馬組織を採取し抗体アレイ法(40種類の炎症関連サイトカインの測定可能なInflammation antibody array)により増加する炎症性メディエーターを同定する。実験2)1)で同定したメディエーターをマウス海馬から調整した静止型アストロサイトに添加し反応性アストロサイトへの転換をin vitroで検証し、さらに海馬内に直接投与し反応性アストロサイトの誘導をin vivoで検証する。実験3)1)で同定したメディエーターに反応性アストロサイト誘導能が見出せなかった場合、抗体アレイでカバーできなかった因子の存在が考えられる。この場合は、キノリン酸投与後の海馬組織抽出液中にその因子の存在を検討し、各種クロマトグラフィーによる精製純化した後、LC-MSを駆使して生化学的な同定を試みる。その他:学会での研究成果の発表に旅費を計上した。
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