本研究では、NK細胞レセプター(NKG2D)のリガンドであるULBP分子群に着目し、慢性炎症性疾患ないし自己免疫疾患を対象として、ULBP遺伝子群の多型と個々の疾患との関連を明らかにするとともに、ULBP遺伝子群多型とULBP遺伝子領域のDNAメチル化および個々のULBP遺伝子発現性との関係を明確にし、さらにそれらがNK細胞機能に及ぼす影響を明らかにすることを目的とした。 今年度は、とくにULBP遺伝子群の重複および多型の意義を検討した。霊長類ULBP遺伝子群の進化学的検討は、ヒトにおけるULBP遺伝子群の構造と機能的意義に関する示唆を与えるが、昨年度までに旧世界ザル(アカゲザルおよびカニクイザル)のULBP2遺伝子群の多様性を決定したことに続き、今年度はこれまでに解析されていないULBP5遺伝子の多様性を解析した。ULBP5遺伝子もULBP2遺伝子と同様に2個(ULBP5.1およびULBP5.2)存在し、いずれも著明な多型性を示した。ULBP5.1アリルはアカゲザルで5種、カニクイザルで9種、ULBP5.2アリルはアカゲザルで6種、カニクイザルで12種検出された。また、ULBP5.1ではフレームシフトをもたらす遺伝子多型が存在した。これらのアリルは、2本のαヘリクスで構成される通常のULBP5分子とは異なり、αヘリクスが1つのみの細胞外ドメインで構成されるULBP5分子(切断型ULBP5分子)をコードすると考えられた。 さらに、旧世界ザルのULBP5遺伝子の多様性を進化学的に考察することを目的として、本研究で得られたアカゲザルおよびカニクイザルのULBP5.1配列およびULBP5.2配列を含めてULBP遺伝子群の系統樹を作成したところ、ULBP5.1はULBP5.2から分岐していることが判明した。また、ULBP5.1、ULBP5.2ともアカゲザルのアリルとカニクイザルのアリルが混在することより、これらの多様性はアカゲザルとカニクイザルが分岐するより以前に成立したものと考えられた。
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