研究概要 |
胎生期~乳幼児期の環境の良し悪しは、生涯にわたる健康状態、特に生活習慣病の発症リスクを左右することが多くの疫学研究及び動物実験によって示されて来た。特にオランダ飢饉に関する疫学研究は、生活習慣病のリスクは低栄養に曝された時期に依存し、経胎盤栄養供給が本格化する前の妊娠初期曝露が最もリスクが高いことを示した。しかし動物モデルでは妊娠全期間あるいは授乳期に至るまでの長期間に母動物に低タンパク質食を与えて仔動物に肥満や糖・脂質代謝異常を誘導する系が一般に用いられている。本研究では妊娠前期のみに限定して低タンパク質食を母マウス(F0)に与え、F1マウスに及ぼす影響を明らかにすることを目的とする。 胎内低栄養によって引き起こされる変化の最初のイベントを明らかにするために胎仔形成の各段階におけるDNAメチル化状態変化を解析した。F1の全胚 (E3.5, E6.75, E10.5 (ts17), E13.5)、胚(E13.5)組織、羊膜(E16.5)、MEF(E16.5)をサンプリングし、Lepプロモーター領域のDNAメチル化状態を解析した。その結果、コントロール群、低栄養群共にE3.5ではDNAメチル化修飾が消失しているが、E10.5にかけて新生DNAメチル化が進行し、両者とも約72%にメチル化レベルが上昇した。しかしE13.5にコントロール群と低栄養群との間に差が生じ、コントロール群(71%)に比べ低栄養群(64%)のメチル化レベルが低下した(p < 0.00035, Fisher’s exact test)。この傾向はE16.5のMEF(p < 0.0037)、羊膜(p < 0.0001)、成体の白色脂肪組織(p < 0.0002)でも見られた。このことから、胎内低栄養によって引き起こされるエピゲノム状態の変化が新生DNAメチル化過程終了後に起こり、維持されることが明らかになった。
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