研究課題/領域番号 |
24590401
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
星 信彦 神戸大学, (連合)農学研究科(研究院), 教授 (10209223)
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研究分担者 |
横山 俊史 神戸大学, (連合)農学研究科(研究院), 助教 (10380156)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 性差 / 性分化 / 性的二型性 / Ypos / 性分化関連遺伝子 / 精巣化 / 卵巣化 / 性逆転 |
研究概要 |
雌雄表現型・機能を維持するためには,様々な性分化関連因子の時空間特異的な性的二型性発現が必要不可欠である.性逆転系統であるB6-XYposマウス成獣はXY型であるにも拘らず,精巣だけではなく卵巣や卵精巣を有する個体の存在が報告されている.これら雌雄表現型の誘導・維持・調節機構に着目し,B6-XYpos新生子性腺の組織学的検索(SOX9,FoxL2及びMVHの検出)並びにqRT-PCRによる各種性分化関連遺伝子のmRNA発現量の定量を行った.XYpos精巣とXYpos卵巣とでは,その肉眼的・組織学的な表現型だけでなく,遺伝子発現様式も明らかに異なっていた.XYpos精巣では,精細管の減少,精細管管径の縮小及び間質の増大が観察され,それに伴うセルトリ細胞及び生殖細胞の減少が示唆された.これらの異常と一致して,XYpos精巣における精巣化因子(Sox9, Sox8, Dhh, Dmrt1, Gata4およびSf1)の発現量の低下が認められた.一方,卵巣化因子(Fst及びWnt4)の発現量は増加していたことから,卵巣化抑制機構の破綻が示唆された.XYpos卵巣では皮質において生殖細胞がわずかに認められたが,対照卵巣よりも明らかにその数は少なく,MVHおよびFoxL2は弱陽性であった.髄質ではSOX9陽性の精細管様構造が多数認められた.卵巣の近傍に精巣上体様組織が観察された個体も存在した.XYpos卵巣の遺伝子発現様式は対照卵巣と類似していたことから,精巣化カスケードの破綻が示唆されたが,Wnt4, Foxl2, FstおよびERaは対照卵巣よりも高発現であったことより,卵巣化遺伝子の発現量調節機構の異常も示唆された.XYpos性腺では新生子の時点で既に精細管の形態形成・機能不全あるいはその兆候がみられ,精巣化遺伝子と卵巣化遺伝子の拮抗作用の制御機構の攪乱によるものと示唆された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本申請研究は,1.実験動物の作製,2.詳細な細胞遺伝学的検討,3.生殖腺の発生に関する組織学的解析,4.性分化関連遺伝子および座位の有無の検討,5.性決定機構と遺伝子補償機構の解析,6.X染色体不活性化の制御解析,7.発生プログラムと組織特異的DNAメチル化プロファイルの形成,の7領域を縦断させ,さらに段階的に成果の蓄積を目指してなされる.25年度以降は,上述した24年度の研究成果に基づき実施する予定であり,図に沿って研究を積み上げていく予定である.成果に沿って新たな展開がなされうる可能性があるが,概ね,想定された研究進捗状況と考えている。
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今後の研究の推進方策 |
発生の基本的ミステリーは,いかにして1個の受精卵が増殖し,各動物固有の細胞,組織,器官に分化するか? である.とくに生殖腺はその形態や機能に唯一『性』依存的差異が認められる組織でありその発生過程には「性分化」という通常の組織では不要なステップが介在する.この点が生殖腺の分化を複雑にしている反面,研究対象としては極めて魅力的な素材である.生物は遺伝的多様性を獲得するために有性生殖という次世代に遺伝情報を受け継ぐシステムを構築した.いうなれば,種の保存のための基盤が『性の決定・分化』であり,生物の雄・雌が決まる仕組みは極めて重要な個体発生の分化過程あるいは生命活動と考えられる.同一組織から発生する精巣と卵巣とは何が違うのか.生殖腺原基に性差を与えるものは何か? それを明らかにする目的で,,1.実験動物の作製,2.詳細な細胞遺伝学的検討,3.生殖腺の発生に関する組織学的解析,4.性分化関連遺伝子および座位の有無の検討,5.性決定機構と遺伝子補償機構の解析,6.X染色体不活性化の制御解析,7.発生プログラムと組織特異的DNAメチル化プロファイルの形成,の7領域を縦断させ,さらに段階的に成果の蓄積を目指す。
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次年度の研究費の使用計画 |
分子生物学用試薬としては,RT-PCR関連およびクロマチン構造解析に関連する試薬が極めて使用頻度が高く,本申請研究の大半を占める.また,今年度はマイクロアレイによる検索を計画しており,その試薬への使用もかなりの額になると思われる.一方,本研究内容の学会発表および関連分野の最新知見を収集するための旅費,研究論文の英文校閲費用と必要項目としてあげている.また,動物の飼育・繁殖にかかる経費として,今年度より竣工した神戸大学ライフサイエンスラボラトリー(実験動物飼育施設)で動物を飼育するにあたり,課金制度が導入されるため,年間飼育費が計画段階の金額以上かかると想定される.
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