研究課題
基盤研究(C)
中條-西村症候群(NNS)は常染色体劣性遺伝形式の稀な自己炎症性疾患である。我々は、免疫型プロテアソームサブユニットβ5iをコードするPSMB8遺伝子のミスセンス変異(G201V)でNNSの発症することを報告した。本研究では、Psmb8遺伝子にG201V変異をノックインしたNNSモデルマウスの解析から、より詳細な発症機序を明らかにする事を目的としている。ES細胞を用いたジーンターゲッティング法でキメラマウスとヘテロマウスを作製し、へテロマウス同士の交配で変異ホモマウスがメンデル比に従い誕生した。しかし予想に反し、これらのマウスはNNS様の病態を示さなかった。ヒトとマウスでの病態の差異が何故発生するのか?を明らかにするために以下の研究を行った。in vitro解析:マウス細胞からタンパク質を回収し、グリセロール濃度勾配超遠心法で分画した。各分画はプロテアソームのアッセンブルの状態を反映しており、ホモマウスでは20Sおよび26Sプロテアソームの活性低下がヒトと比べて軽微である事が分かった。これはヒトと異なり、(i)免疫プロテアソームサブユニットがIFN-γで強烈に誘導されること、(ii)ヒトとマウスでは共に変異β5iは成熟型になれない。ヒトではこの変異型はプロテアソームに取り込まれないが、マウスでは取り込まれた。これは表現型の差異の原因の1つと考えられる。in vivo解析:(i)変異マウスではユビキチン化タンパク質が細胞内に蓄積していた。(ii)NNS患者と同様に、マウス血清中でもIL-6濃度が有為に高かった。(iii)NNS患者と同じく、核内のリン酸化p38の過剰な蓄積が観察された。モデルマウスはin vitroレベルでは患者と異なるが、in vivoレベルでは一致する。今後は、このモデルマウスを用いて本研究を行っていく。
2: おおむね順調に進展している
本年度は作製したモデルマウスが中條-西村症候群(NNS)の疾患モデルとして、適切であるか?を確認した。NNS患者では、生後間もなく病態が観察されるが、マウスES細胞を用いて誕生した変異ホモマウスはNNS様病態は示さなかった。報告者はこの原因をin vitroおよびin vivoレベルで検討した。その結果、マウスのプロテアソームはヒトプロテアソームとin vitroレベルでは、動態が異なる事が分かった。NNS患者由来細胞で観察されるプロテアソーム活性の質的・量的低下が起きないが、外見からでは分からないIL-6の濃度の有為な上昇やリン酸化p38の過剰な核内蓄積が観察されたことから、『本マウスは細胞、組織、個体レベルではモデルとして有効である』との結論に至った。
作製したノックインマウスがNNSのモデルとして適切と考え、今後はこのマウスを用いて研究を遂行していく。まず過剰なユビキチン化タンパク質の蓄積が引き起こす細胞ストレスの正体の解明を中心に行う。またマウスでは、ヒトと異なりIFN-γ刺激により、免疫プロテアソームサブユニット遺伝子の発現が強烈に誘導される。この原因をエピジェネティクスに注目して解明する。変異β5iは、ヒト・マウス共に、プロペプチドが切断されず成熟型になれない。しかし、マウスでは非成熟型β5iがプロテアソームへと取り込まれていく。この現象をコンピュータモデリングによる構造解析で明らかにする。
次年度は細胞ストレス解析のための消耗品(キット、抗体、qPCR試薬等)の購入を予定している。日本またはアメリカの人類遺伝学会に参加するための旅費の支出を予定している。また、謝金や人件費の支出の予定は無い。
すべて 2012
すべて 雑誌論文 (5件) (うち査読あり 5件)
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