研究課題/領域番号 |
24590403
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研究機関 | 長崎大学 |
研究代表者 |
木下 晃 長崎大学, 原爆後障害医療研究所, 講師 (60372778)
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研究分担者 |
木下 直江 長崎大学, 大学病院, 助教 (50380928)
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キーワード | プロテアソーム / 中条-西村症候群 / ユビキチン化タンパク質 / 細胞ストレス / IL-6 / ノックインマウス |
研究概要 |
Nakajo-Nishimura syndrome (NNS, 中条-西村症候群)は、本邦から報告された上染色体劣性遺伝形式の自己炎症性疾患の一つである。報告者は、その原因遺伝子が、免疫プロテアソームのサブユニットβ5iをコードするPSMB8であることを2011年に発表した。 不要なタンパク質(例えばミスフォールディングされたタンパク質)の細胞内での蓄積は、細胞にストレスを引き起こす。これを防ぐために細胞内では、不要なタンパク質はユビキチン化され、選択的かつ積極的にプロテアソームで分解されている。プロテアソームはトリプシン様活性、カスペース様活性、そしてキモトリプシン活性をもつサブユニットとそれ以外の多くのサブユニットで構成される巨大タンパク複合体で、その組み立ては厳密にコントロールされている。 NNS患者では、PSMB8の突然変異(201番目のグリシンがバリンに変異)により、プロテアソームの機能が低下している。(1)β5iはキモトリプシン様活性を担っているが、それ以外のトリプシン様活性とカスパーゼ様活性もが低下している。(2)変異により免疫プロテアソームの組み立てに異常が起り、成熟型プロテアソームができにくい。(3)これらの結果、NNS患者由来細胞では細胞内に分解されないユビキチン化タンパク質が蓄積し、正確な経路はまだ不明だが、リン酸化p38が正常細胞と比較して多量に核内に移行する。(4)(3)が引き金となり、インターロイキン6(IL-6)が正常細胞よりも多く分泌される。また、患者血清中でもIL-6が有為に高く検出された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究では、Nakajo-Nishimura syndrome (NNS)患者で同定されたPSMB8遺伝子のG210V変異(201番目のグリシンがバリンに変異)をノックインした遺伝子改変マウスを作製し、その表現系解析からNNSの発症機序の詳細を明らかにすることが本研究課題の目的である。しかし、NNSモデルマウスは、ヒト患者様の症状を示さない。しかもIFN-γ等の腹腔内投与も効果がない。 マウスの免疫プロテアソームサブユニットβ5iの誘導パターンがヒトと異なることがわかった。ヒト線維芽細胞ではIFN-γでの誘導が弱いが、マウス線維芽細胞ではRNAレベルでは100倍以上の誘導がかかる。また、ヒトプロテアソームでおこるプロテアソームのアッセンブル異常とそれに伴う活性低下がマウスでは観察されない。しかし、NNS患者で観察されるIL-6の分泌亢進とリン酸化p38の核内移行の亢進は観察された。細胞レベルでは、NNSモデルとして使えることは判明した。 G201V/G201Vマウスでは、ヒトでは観察されない表現系が観察された。G201V/G201Vマウスは出産直後は正常だが、離乳期を過ぎた頃から外性器や子宮頸部に炎症が生じ、その後脂肪が減少し最終的に死亡する。 また、正常なマウスでは生後3週目以降から胸腺が退縮し、脂肪へと置き換わってゆくが、G201V変異を持つマウスでは、ヘテロ・ホモを問わず胸腺の退縮がみられない。
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今後の研究の推進方策 |
Nakajo-Nishimura syndrome (NNS)の原因遺伝子PSMB8は免疫プロテアソームサブユニットβ5iをコードする。β5iは免疫系でのみ働くと考えられてきたが、少なくとも報告者の研究の結果、マウスでは線維芽細胞をはじめとする細胞で発現している。昨年Cell誌に掲載された論文でも、マウス精巣で発現が報告されている。今後は免疫プロテアソームという概念(先入観)にとらわれず研究を進めてゆきたい。 G201V変異をもつβ5iは、ヒト・マウスを問わずプロペプチドが切断されず成熟型にはなれない。しかし、ヒト非成熟型β5iはプロテアソーム複合体にアッセンブルされずプロテアソームの持つ全ての活性が低下するのに対して、マウスでは非成熟型β5iは複合体に取り込まれてゆき、活性の低下もヒトに比べて軽度である。この差を生み出すものは何か?をコンピューターモデリングと実験系で明らかにしてゆきたい。 マウスではPsmb8の発現は、ヒトと比べて強烈にIFN-γで誘導されるが、その原因は不明である。エピジェネティックな変化の違い?、プロモーター・エンハンサーおよび結合するタンパク質(転写調節因子)の違い?が想像されるが、ルシフェラーゼアッセイやChIPアッセイで明らかにしてゆきたい。 NNS患者では見られないが、マウスのみで観察される出産が引き金となる外性器と子宮頸部の炎症、それに続く脂肪の消失の原因は何か?を明らかにしたい。
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次年度の研究費の使用計画 |
昨年度は別の研究費が獲得でき予算に余裕があった。 今年度は新たなモデルマウスの作製のため多くの予算を使用する予定である。
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