研究実績の概要 |
ヒトiPS細胞株TIG3/KOSMを用いて、IL2RG遺伝子座を標的として遺伝子ターゲッティング(GT)効率をさらに改善するための方法の検討を行った。今年度は、人工制限酵素の発現レベルを上げる目的で、IL2RGを標的としたCRISPRとIL2RGドナーDNAの両方をコードしたall-in-one ベクターであるHDAd-hIL2RG-CRISPRを新たに構築した。得られた結果(独立に3回に行った実験の平均)は以下の通りである。 1)5’と3’の相同領域をそれぞれ8.7 kbと11.1 kbカバーするGT用ドナーDNAをコードしたヘルパー依存型アデノウイルスベクターHDAd-hIL2RG-neoを感染させた際のGT頻度は、3.5 x 10-6(遺伝子導入細胞290,000個当り1個)であった。一方、IL2RGを標的としたCRISPR 発現プラスミド(pCRISPR-IL2RG)と5’と3’の相同領域をそれぞれ1 kbずつコードしたドナープラスミドDNAをトランスフェクションした際に得られるGT頻度は、1.4 x 10-4(遺伝子導入細胞7,100個当り1個)であった。 2)HDAd-hIL2RG-neoによるドナーDNAの導入とpCRISPR-IL2RGによる標的DNA切断の組み合わせによるGT頻度は、2.6 x 10-4(遺伝子導入細胞3,600個当り1個)と、1) のCRISPRのみの場合の頻度に比べてさらに上昇した。 3)all-in-oneベクターHDAd-hIL2RG-CRISPRの感染によるドナーDNAの導入と標的DNA切断によるGT頻度は、2)と同様に高く、2.7 x 10-4(遺伝子導入細胞3,700個当り1個)であった。 以上の結果から、HDAdVによるドナーDNAとCRISPRの発現(プラスミドもしくはHDAdVの形で)が、効率の高い遺伝子修復法の確立に向けて非常に有効であることが明らかとなった。ヒトiPS細胞へは通常のトランスフェクション法を用いても効率よくDNA導入が可能であるが、all-in-oneベクターにドナーDNAとCRISPRを搭載したことにより、DNA導入が困難な様々細胞・組織における高効率なin vitroならびにin vivoの遺伝子修復が可能になることが期待される。
|