研究実績の概要 |
個々の腫瘍の性質に応じた個別化診断、それに基づく分子標的治療が施行され、肺腺癌や大腸癌などに対する分子標的治療は、その高い奏功率と副作用が少ない薬剤として、患者さんのQOL及び延命に多大な役割を果たしている。一方、放射線治療においては個々の腫瘍の性質を考慮せず一律な照射が行われており多くの子宮頚癌に有効であるが、一部の癌では、治療後の耐性獲得や悪性形質への変化により早い時期での転移巣の形成などが起きること、実験レベルでは放射線照射後の上皮間葉移行(epithelial-mesenchymal transition: EMT)やstemnessの獲得による悪性形質への転換も報告されている。近年、Hippo pathwayとEMTやstemnessの関与が報告されている。 昨年度は4種類の子宮頸癌細胞株(Caski, C33A, Hela, Siha)を用いて放射線照射(single dose: 10Gyx1とmultifraction irradiation: 2Gyx10)を行いその早期(48時間後)及び再増殖期(21日後)にEMT関連蛋白の発現を調べEMT関連転写因子や間葉系蛋白の上昇を認めた。今年度はそのうち放射線感受性の高い2種類の細胞株(Caki, C33A)を用いてHoppo pathewayの重要な蛋白であるYap1, Yap2, Taz, TefのmRNAの発現を調べた。21日後に再増殖してきた細胞において、Sigle doseではTaz, Tef mRNAのみが上昇していたが、multifraction doseではYap1, Yap2, Taz, TefのmRNAのいずれもが上昇していた。これらの細胞ではstemnessのマーカーであるSox2, Oct 3/4, Nanog, CD44の発現上昇も見られた。YAP及びTAZをsiRNAにてノックダウンするとslugとTwist mRNAの発現が低下した。以上の結果からHippo pathwayを介したEMT及びstemnessの獲得が放射線耐性及び再発腫瘍の悪性化に関与している可能性があることがわかった。
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