研究概要 |
1)これまで34家系のBHD症候群における遺伝子解析を施行し, 10種類の変異パターンを同定した. うち6家系は新規変異であった. 殆どの症例がC末端に近いExon 11-13 に変異を有していた. 腎腫瘍の凍結保存症例では, 腫瘍部と非腫瘍部におけるfolliculin (FLCN)について定量的に検討し, FLCN消失や高度の発現低下を確認した.肺嚢胞切除術12症例では, 未破裂の初期肺嚢胞部では組織学的には有意な炎症反応を欠き, 間質増生も目立たない嚢胞壁を有し, 部分的に肺胞細胞の裏打ちがある上皮性嚢胞を形成, また嚢胞は常に小葉間隔壁や胸膜と密着し, 発生に間質組織との相互作用の重要性が示唆されることを見いだした (Pathol Int 2009, Am J Surg Pathol 2012, 日本臨床 2010, 病理学会総会2009-2012, 癌学会総会2009, 2012). 一方, 気胸を繰り返しリモデリングの進んだ臓側胸膜ではブラやブレブとの鑑別が難しい複雑な像を呈することが分かった. 免疫染色による検討では,非嚢胞部にも嚢胞壁病変部にもFLCNの完全消失はないが, mTORシグナル分子の強発現があり, 不完全なFLCNに基づく細胞機能障害が嚢胞発生につながることが示唆された. 2) 3次元(three dimensional) 培養系で、Folliculinの肺胞上皮形成過程における機能解析に着手した。培養法は先行研究(Franzdottir et al., 2010)に準じた。これまでに、約10日でVA10細胞が球状の塊(spherical colony)を形成した後、枝分かれ(branching)を開始し、約20日で肺胞上皮様構造(Complex epithelial branching structure)を3次元的に形成することを確認した。
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今後の研究の推進方策 |
家族に関する疾患情報を集積すると, BHD症候群家系40名のうち15名に腎腫瘍が認められ, うち3例が癌死や透析導入など, 予後に重大な影響を及ぼしていることが分かった. 本疾患において気胸で切除される肺嚢胞を正確に病理診断することは極めて重要である. 症例数を増やして肺嚢胞の特徴を明らかにし, また有用な免疫組織化学的マーカーを見いだし、BHD診断をより確実に行えるようにし、患者さんや家族の包括的診療体制を整備することが求められる.
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