研究概要 |
これまで59家系のBHD症候群を遺伝子解析によって確定した. うち8家系は新規変異であった. 殆どの症例がC末端に近いExon 11-13 に変異を有することが判明した. また腎腫瘍を凍結保存できた症例については, 腫瘍部と非腫瘍部における原因蛋白質folliculin (FLCN)について検討し, DNAレベルにおける高頻度のセカンドヒットやLOH, タンパク質レベルにおけるFLCN消失や高度の発現低下を呈することが分かった. また, 甲状腺癌を合併した例においては甲状腺癌部におけるFLCN LOHを突き止めた (2013年日本病理学会秋季総会優秀賞, 原著1編投稿中). 日本人を主体とする19家系の臨床疫学結果と肺病理所見について総説を発表した. その中で, 未破裂の初期肺嚢胞部では組織学的には有意な炎症反応を欠き, 間質増生も目立たない嚢胞壁を有し, 部分的に肺胞細胞の裏打ちがある上皮性嚢胞が形成されること, また嚢胞は常に小葉間隔壁や胸膜と密着しており, 発生に間質組織との相互作用の重要性が示唆されることを提唱した (J Clin Pathol 2013). 一方, 腎癌発症は, 145名の推定保因者中36名(24.1%)であった. うち十分な臨床情報の得られたBHD腎癌患者21名中13名(61.9%)が, 腎癌罹患前に気胸治療をされていたが, いずれも気胸治療時にBHD症候群を疑われずに放置されていたことが分かった. 本疾患において気胸で切除される肺嚢胞を正確に病理診断することは極めて重要であることが改めて判った. 症例数を増やして肺嚢胞・腎腫瘍の特徴を明らかにし, 診断に有用なマーカーを作ることやBHD患者さんとその家族の包括的診療体制を拡充することが求められる.
|