研究実績の概要 |
累計100家系のBHD症候群家系を遺伝子解析によって確定した. うち10家系は新規変異であった. 74家系 (74%)がC末端に近いExon 11-13 に変異を有することが判明し, この部位に絞って検討する場合でも発見率が7割を上回ることが分かった.
腎腫瘍を凍結保存できた症例については, 腫瘍部と非腫瘍部における原因蛋白質folliculin (FLCN)について検討し, DNAレベルにおける高頻度のセカンドヒットやLOH, タンパク質レベルにおけるFLCN消失や高度の発現低下を呈することが分かった. 腎腫瘍の最も多い組織型は嫌色素性腎細胞癌とハイブリッド腫瘍で, 53個の摘出腫瘍を用いた検討では前者が20 (37.7%), 後者が22 (41.5%)であった. 免疫染色を用いた検討では, 嫌色素性腎細胞癌もハイブリッド腫瘍も似たような染色態度を呈し, CK7やCD82が高頻度に陽性であった. これらのことからBHD症候群に好発する腎腫瘍は遠位尿細管由来で, 形態学的鑑別は可能であっても生物学的類似点が多いと考えられた.さらに患者情報を集積した結果, 肺腺癌あるいは過形成性様病変が5名に見つかった. 偶発事象の可能性は否定できないものの, 5名中2名は多発性で, 2名は家系内発症であった. また1名の肺病変は孤在性ではあるが、組織学的に結節性硬化症におけるmicronodular pneumocyte hyperplasiaとほぼ同様の像で, mTORシグナル異常を示唆する所見であった. これまでBHD症候群における肺病変は嚢胞と気胸しか認識されていないが, 肺腫瘍の可能性があると考え, 現在詳細を検討中である.
本疾患において各臓器の病変を正確に病理診断することは極めて重要である. また, まだ関連が解明されていない腫瘍が複数存在し, より多くの症例を詳細に検討する必要がある.
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