胃腸管間質腫瘍(GIST)において、KITまたはPDGFRA遺伝子の機能獲得型変異に加え、低酸素応答に関連するHIF(hypoxia-induced factor)の蓄積やHIFの蓄積に影響を与えるTCA回路構成因子であるSDH(succinate dehydrogenase; コハク酸脱水素酵素)の異常を解析し、GISTの発生や高悪性化への関与を解明することを目的とした研究である。多数例のGISTにおいて、免疫組織化学染色を用いて解析したところ、HIF-1αの過剰発現例は有意に無病生存期間が短かかった。また、腫瘍径、核分裂数、血管浸潤とも有意に相関していた。 さらにmicroRNA arrayを行い、HIF-1αの標的遺伝子であることが報告されているmiR-210が高悪性度GISTで発現が上昇していることが判明した。定量的RT-PCRにおいてもmiR-210高値は、腫瘍サイズや組織学的悪性度と相関することが確認され、HIF-1α発現とも相関する傾向が認められた。従って、通常型GISTにおいて、HIF-1αの蓄積やそれに伴うmiR-210過剰発現はGISTの悪性化進展に関与することが示唆された。 一方、SDH欠失はGIST全体の約5%に認められた。少数例のため統計学的解析は困難だが、SDH欠失型GISTの全例においてHIF-1α高発現が認められた。これは、SDH欠失により細胞内に過剰に蓄積したコハク酸がHIF-1αの蓄積を促すという、これまでにパラガングリオーマなどで報告されている現象に合致しており、SDH欠失型GISTにおいても同様のメカニズムが腫瘍発生に重要な役割を果たしていることが示唆された。
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