研究概要 |
1)甲状腺濾胞性腫瘍である濾胞腺腫(FA, n=15)、微小浸潤型濾胞癌(FCMI, n=15)、広範浸潤型濾胞癌(FCWI, n=10)を対象に、DNA損傷応答(DDR)分子53BP1の蛍光免疫染色を施行し、発現頻度の群間比較を行った。その結果、FAで全例が53BP1核内フォーカス(NF)のない安定型か2個までの低DDR型であるのに対し、濾胞癌では、FCMIとFCWIともに、53BP1 NFが3個以上の高DDR型の頻度が有意に高率であることが判明した。その分布には特徴があり、高DDR型細胞は浸潤部と被膜直下に限局してみられ、中央部では認められなかった。濾胞性腫瘍の術前診断は、現在のところ困難とされる。本研究では、53BP1の発現解析を濾胞性腫瘍の病理診断に応用することを最終目的にしているが、濾胞性腫瘍の被膜直下での53BP1高DDR型発現は悪性の指標として有望であることが判明した。 2)好酸性細胞型FA(FAOV, n=11)を対象に53BP1の蛍光免疫染色を施行した結果、安定型が1例で、他は低DDR型または高DDR型であった。高DDR型を示した2例のアレイcomparative genomic hybridization (CGH)解析では、特定の遺伝子増幅領域が判明、FISH法において増幅を確認した。FAOVは通常のFAより濾胞形成が乏しく充実構造を呈し、核異型が高度となり、良・悪性の判断がしばしば問題となる腫瘍である。遺伝子増幅はゲノム不安定性の指標であり、FAOVでのゲノム不安定性の関与が示唆された。
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