研究課題
甲状腺濾胞癌には乳頭癌の核所見のような特異な形態像はなく、その術前診断は、殆どの場合不可能とされる。DNA損傷応答(DDR)分子p53-binding protein 1(53BP1)核内フォーカスを指標とした甲状腺濾胞性腫瘍の術前鑑別診断への応用の可能性について検討した。53BP1はDNA二重鎖切断(DSB)部位に集積する核内分子で、個々の核内フォーカスはDSB1個に相当する。我々は、その発現パターンが甲状腺癌、皮膚癌、子宮頸癌の腫瘍進展過程で異なることを報告している。今回の対象は広範囲浸潤濾胞癌(FCWI)14例、微小浸潤濾胞癌(FCWI)29例、濾胞腺腫(FA)30例のホルマリン固定パラフィン包埋切片で、53BP1蛍光免疫染色により解析した。フォーカス発現パターンはフォーカス形成が1-2個のものを低DDR型、3個以上または1μm以上の大型フォーカスを発現するものを高DDR型として評価した。さらにアレイCGH法により53BP1発現とDNAコピー数異常(CNA)との関係をみた。高DDR型発現頻度の平均値は濾胞性腫瘍の悪性度と有意(p<0.001)な相関がみられ、FCWI9.9%、FCMI6.3%、FA2.7%であった。CGHによる平均のCNA全長も濾胞性腫瘍の悪性度と有意(p=0.0262)な相関がみられ、FCWI137.9Mbp、FCMI85.2Mbp、FA25.4Mbpであった。53BP1の高DDR型発現は自然発症性DSBの亢進を示唆し、CGHによるCNAの大きさと同様、腫瘍細胞の悪性化に伴うゲノム不安定性を反映する現象と考察する。53BP1蛍光染色は、濾胞性腫瘍の良悪性の鑑別に有用であり、穿刺細胞吸引診検体などでの術前診断に応用できる可能性がある。
1: 当初の計画以上に進展している
本研究の目的は、甲状腺濾胞性腫瘍の診断における、悪性度を推定する分子病理学的マーカーとして、53BP1の発現パターンが病理診断や細胞診に応用可能であるか否かを結論付けることにある。そのために以下の点を明らかにすることを目標にした。1) FA、FCMI、FCWIでの53BP1の蛍光免疫組織化学的発現と臨床病理学的因子との関係、2) 特殊型としての好酸性濾胞腺腫(FAOV)の特異性を評価するために、通常型FAとFAOVでの53BP1の蛍光免疫組織化学的発現と臨床病理学的因子との関係、3) 濾胞性腫瘍での53BP1の蛍光免疫組織化学的発現パターンとGINの指標としてのCNAとの関係。現在までに上記の3点はほぼ明らかにし、FAOVについては論文投稿中、FAとFCについては論文執筆中であり、当初の計画より進展している。
今後FAとFCについては論文を完成し投稿する。さらに、濾胞性腫瘍の術前診断法としての有用性を評価することを、最終的な目標とする。甲状腺乳頭癌の診断には穿刺細胞吸引細胞診が有効である。一方、FAとFCの鑑別には、細胞の異型度は良性・悪性の区別に関与しないため、細胞診で確定診断に至ることは困難である。本年度は、術後切除標本で診断の確定している症例の細胞診検体を対象に、蛍光免疫染色による53BP1発現が有効かを検証する。将来的には前方視的に穿刺細胞吸引細胞診検体を用いた評価を行い、術前診断法としての有用性を評価する。
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