研究課題
基盤研究(C)
本研究では、SAV1遺伝子の腎癌細胞における機能を解明して、14q lossによって引き起こされるSAV1の発現低下が腎癌の悪性化を引き起こすメカニズムの解明することを目的とする。さらにSAV1はHippoパスウェイのシグナル分子であることから、腎癌において、SAV1発現低下がHippoパスウェイのシグナルにどのような影響をもたらすのか、腎癌の発症・悪性化にどう関わるのかを解明することを目的とするものである。平成24年度は、まずSAV1遺伝子の組み換えレンチウイルスの作成と機能解析により、SAV1発現低下がHippoパスウェイのシグナルにどのような影響をもたらすのか、in vitroで解明した。また、ヒト腎癌症例でのSAV1の発現と下流のコンポーネントの発現状況を検討し、症例レベルでのシグナルの状態を確認した。これらの結果から腎癌の発症や悪性化にSAV1を含むHippoパスウェイがいかに関わっているかを知るうえで重要な知見を得ることができた。
2: おおむね順調に進展している
平成24年度は、まずSAV1遺伝子の組み換えレンチウイルスの作成と機能解析により、SAV1発現低下がHippoパスウェイのシグナルにどのような影響をもたらすのか、in vitroで解明すること、また、ヒト腎癌症例でのSAV1の発現と下流のコンポーネントの発現状況を検討し、症例レベルでのシグナルの状態を確認することを計画した。そこで、SAV1 遺伝子のcDNA をGateway system(Invitrogen)によりレンチウィルスベクターpLenti7.3/V5-DEST(Invitrogen)あるいはpLenti6.3/V5-DESTに組み込み、作製したプラスミドをLipofectamine2000 (Invitrogen)を用いてHEK293T 細胞にトランスフェクションし、それぞれ超遠心により精製して組み換えウィルスとした。empty vector をコントロールとして、腎癌細胞株に遺伝子導入し、細胞増殖能あるいはアポトーシス能を測定したところ、SAV1を導入した細胞株では増殖能が抑制され、アポトーシス能が亢進した。逆にsav1 siRNAでノックダウンした細胞では増殖能が亢進し、アポトーシス能が抑制された。遺伝子導入した細胞株からタンパク質を回収し、ウエスタン法でHippo パスウェイシグナル分子LATS1/2, YAPのリン酸化状態の変化を確認すると、SAV1を導入した細胞株ではLATS1/2のリン酸化が亢進し、YAPのリン酸化も亢進した。以上のことから、SAV1の発現がYAPの核移行やシグナル伝達にin vitro、ヒト腎癌症例で関わっていることが証明できた。これらは当初に計画していた内容にそったものであり、平成24年度に計画していた内容はほぼ達成でき、おおむね順調に進展しているといえる。
平成24年度に、SAV1を含むHippo パスウェイシグナルが、in vitroでも腎癌症例でも関わっていることを証明できたので、得られた結果を基にして腎癌症例におけるHippo パスウェイの活性化の検討を行なう。また、マウスを用いた移植実験を行う。1、 腎癌症例のパラフィンブロックを用いて、SAV1 を含むHippo パスウェイコンポーネントに対する抗体で免疫染色を行ない、それぞれのタンパク質の発現とYAP, TAZ の細胞内局在(核への移行)を調べる。また、それぞれの腎癌症例のgrade との相関を調べることによって、Hippo パスウェイの不活性化(コンポーネントのタンパク質発現低下やYAP, TAZ の核局在)がhigh grade 腎癌に特徴的であるかどうかを検討する。2、 SAV1 遺伝子導入腎癌細胞のSCID mouse への移植モデルによる増殖並びに転移能の解析を行なう。SAV1 遺伝子をウイルスベクターpLenti6.3/V5-DEST (Invitrogen)に組み込み、平成24 年度1,2と様に組み換えウィルスを作製し、SAV1 発現の低い腎癌細胞株に導入する。抗生物質blasticidin (Invitrogen) で選択しstable clone を複数単離する。また同様にSAV1 遺伝子shRNAについてSAV1 発現の低下していない細胞株に導入してstable clone を得る。Empty vector から作製したclone をコントロールとする。得られたclone をSCID mouse の皮下あるいは腎被膜下に移植して、腫瘍の増殖(大きさ、浸潤、転移)についてコントロールと比較することにより、SAV1 遺伝子が実際にマウスの生体内でも腫瘍増殖の抑制に関わっているかを解析する。
平成24年度に得られた結果をもとにした実験計画を遂行するため、具体的にはstableにSAV1が遺伝子導入された腎癌細胞株を樹立するための培養、移植実験に用いるマウス(SCID mouse等)、パスウェイ解析などに研究費を使用する予定である。平成24年度に計画していたshRNAを安定的に発現するためのshRNAの購入や遺伝子導入は、年度内に実行したものでは発現株が得られなかったため、次年度(平成25年度)に再度条件を検討して再試行する。次年度に繰り越した研究費により実行可能である。平成25年度に計画している研究のうち、計画通りに進まない場合、例えばHippoパスウェイのコンポーネントの発現を免疫染色等で検討する際に、抗体の条件などによっては、コンポーネントを絞り込む必要が出てくる可能性がある。また、移植実験では繰り返し手技を安定させて行うため、移植に用いる細胞数あるいはマウスの数の検討などを行うことを考慮していく。
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