肺癌の発生率は年々増加傾向にある。肺癌の早期発見は予後の改善に関する重要な因子が考えられ、肺癌の浸潤・転移機構に対する様々な因子の解析や新規腫瘍マーカーの開発が進められてきたが、その生物学的機序については未だ不明な点が多い。このため、肺癌における浸潤・転移機構と肝細胞増殖因子Hepatocyte Growth Factor (HGF)系およびその制御の要であるHGF activator inhibitor type-1 (HAI-1)およびHAI-1類似蛋白であるLow density lipoprotein receptor-related protein 11 (LRP11)がどのように関わっているかを明らかにすることは、肺癌の分子学的病態の一側面を解明することにつながり、また新規分子標的治療薬の標的にもなりうる可能性がある。Northen blotでの予備実験では、ヒト正常臓器において脳・前立腺および精巣にLRP11の遺伝子発現がみられ、肺ではその遺伝子発現が軽度認められた。LRP11に関する文献的報告は全くなく未知の新規蛋白質である。 このため、始めにCOS7細胞にヒトLRP11を過剰発現させたCOS7-hLRP11細胞を作成し、RT-PCR法でhumanLRP11の遺伝子発現およびWestern blotでhumanLRP11蛋白発現を確認した。GeneTex社のrabbit polyclonal抗体を使用し、この抗体がhuman LRP11蛋白を検出できることを確認した。肺癌手術材料からtotal RNAを抽出し、real-time PCRで遺伝子発現を検索した結果、肺腺癌においてはT stageとLRP11遺伝子発現に相関がみられた。ヒト肺癌組織を用いた免疫染色では、腺癌、扁平上皮癌、小細胞癌において、癌細胞膜および細胞質に陽性像が得られた。 現在、LRP11遺伝子発現および免疫染色によるLRP蛋白発現に関して、病期分類、無病再発期間および無病生存期間について相関がみられるか検討中である。
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