研究概要 |
肺腺がんの発生、進展におけるにおいて分子基盤を明らかにするため、本年度は変異型EGFR遺伝子によって誘導される分子変化の探索を行った。レトロウィルスを用いて不死化気道上皮細胞株にEGFRのexon 19 の欠失遺伝子とexon 21 L858R 点突然変異遺伝子とを導入し、細胞の変化、遺伝子変化を解析した。 結果、野生型のEGFR遺伝子、空ベクターを導入したコントロールの細胞と比較して、変異型遺伝子を導入した細胞では顕著な増殖の抑制と、核の腫大や多核化等の細胞異型を認めた。がん遺伝子と考えられている変異型EGFR遺伝子による増殖の抑制は新知見と思われた。変異型EGFR遺伝子の導入によって誘導される下流分子を検索するために、マイクロアレイ解析により網羅的に候補遺伝子を検索した。空ベクタ―導入細胞と比較して、変異型導入細胞株では、CCL3(chemokine C-C motif ligand C), IL24 , IL1B, IL1Aなどのcytokineの活動に関わる遺伝子の高発現が見られた。他にはkeratin 6A, 6B, 6C, dehydrodolichyl diphosphate syntase, ras supressor protein 1, cysteine-rich C-terminal 1, hydroxy-delta-5-steroid dehydrogenase 3b, matrix metalloproteinase 1などの発現が亢進していた。ヒト肺癌細胞株においてCCL3のmRNAの発現を検討した。マイクロアレイ結果の通り、変異型導入細胞株の高発現は確認できたが、検索した範囲内ではヒト肺癌細胞株では有意な発現の上昇は見られなかった。
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次年度の研究費の使用計画 |
変異型EGFR遺伝子導入細胞で高発現されている遺伝子群について、ヒト肺がん細胞株を用いて順次高発現されているのか検証していく。今年度は研究の遅れから、ヒト肺がん細胞株における発現の検討が十分できず、繰越金が生じてしまったが、次年度ではchemokine関連の遺伝子群から検討を始め、研究の遅れを取り戻す予定である。 ヒト肺がんデータベースの整備を行う。肺がん手術検体から採取されたパラフィン封埋材料、凍結検体を用いてEGFR, RAS, ALKなどの遺伝子変異を検索し、組織学的分類、臨床病理学的事項以外にも遺伝子異常について明らかにしてデータベースを整備していく。ヒト肺がん細胞株で高発現されている遺伝子群については、整備されたデータベースの検体を用いてヒト肺がん組織における発現を検索し、組織像、臨床病理学的事項との関連を解析する。
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