研究課題/領域番号 |
24590424
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 埼玉医科大学 |
研究代表者 |
安田 政実 埼玉医科大学, 医学部, 教授 (50242508)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 卵巣明細胞癌 / 治療の個別化 / 低酸素関連因子 |
研究概要 |
卵巣癌の大半は上皮性であり,諸外国との比較において本邦では明細胞腺癌の頻度(漿液性腺癌に次いで第2位)が有意に高い.明細胞腺癌は通常の化学療法に対し漿液性腺癌に比べると耐性があるとされているが,I期では種々の組織型間で比べても大きな予後の違いはない.しかしながら,III期でみると漿液性腺癌の生存率が50%であるのに対して明細胞腺癌は30%と明らかに低い.このような状況下,予後改善に向けては組織型個別の治療法の確立が課題と言える.これまで,我々は明細胞癌を対象に「低酸素下でのHIF-1αの活性化にはmTORが正の調節因子として機能していることから、mTORを阻害することによるHIF-1αの抑制作用が期待される」ことを見出し,とりわけ明細胞癌では「p-mTORの発現が有意に高く,mTOR阻害剤適応に際しp-mTORが組織学的マーカーになる」ことを報告してきた.さらにその成果をより発展させるため,昨今,行った培養系および動物実験系による実践モデルでの検討でも,意義のある結果を得ることができた.このことは,早晩,海外誌面上で発表が予定されている(投稿論文に対してacceptableの回答を得ている).そのなかで,最も有意義な成果は,「mTORの阻害,すなわちHIFの転写抑制は連鎖的に“アポトーシスの亢進”と“HIFの分解系の活性化”にも繋がる」ことを示したである.また,これまでの成果が実を結んだ産物として,mTOR阻害剤の臨床応用に対して本邦でもtrialが開始された.すなわち,ラパマイシン誘導体の投与が卵巣明細胞腺癌で威力を発揮して予後改善に寄与するのかが,現実的に問われることとなった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
24年度は,転帰・予後が判明している卵巣明細胞腺癌を対象とすべく,多施設への協同参画を依頼し,結果的に180例ほどの症例を整備することができた.それらの病期は,I期132例,II期13例,III期60例,IV期6例であった.これらの内,「①予後良好I/II期120例vs. ②予後不良I/II期25例」,「③予後良好III/IV期14例」vs. 「④予後不良III/IV期29 例」,に着目した解析を漸次実行しつつある.まずは,形態学的な特長を十分に把握することに課題を置いているが,強い細胞異型(低分化な成分の存在)や核分裂像の多寡に関しては,上記の4群間で有意な差異を見いだされてはいない. これまでの「研究実績」により,ラパマイシンあるいは誘導体によってもmTORの活性は大きな影響を受けることはないが,リン酸化が抑制されることでp-mTORの発現が著しく低下することが証明された.さらには,VEGFやエリスロポエチンも抑制を受け,特に前者は蛋白レベルに加えてRNAレベルでの定量的測定でも減少することが分かった.一方で,HIF-1αの恒常性維持において,その分解系に働くVHLは蛋白の発現が亢進し,かつRNA量も増加することを検証した.また,Ki-67の標識率で反映される増殖能が低下するや,アポトーシスのマスター蛋白とされるcleaved caspase 3は蛋白レベルで亢進していることも確認された.これらは明細胞腺癌・培養系で得られた結果ではあるが,マウスにラパマイシンおよび誘導体を投与し,実際に腫瘍の抑制効果あることを検証した.この場合,ラパマイシン単独でも効果が期待できることが示されたが,化学療法剤との併用により相乗効果が発揮されることが証明された.
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今後の研究の推進方策 |
昨今,遺伝子的な背景や腫瘍の成り立ち(前駆病変)を基に,卵巣腫瘍もI型・II型の区分けがなされるようになり,卵巣腫瘍に対する新たな生物学的根拠と認識が生まれた.このような状況下,我々は,当初の目的通りに「治療の観点からみた卵巣腫瘍の個別化」に主眼を置いて,さらなる研究の展開を図りたい.具体的には,まず,現在進めている「HIF-1αの核内移行,およびHIF-1の転写調節に関わっているヒストン脱アセチル化酵素7 histone deacetylase 7(HDAC7)」の発現と予後との相関を検討する.さらには,「低酸素環境下で活性化され,細胞内外のpH調整を担っているcarbonic anhydrase-IX(CA-IX)」に関しても,明細胞腺癌での組織学的variationと発現態度の特長,および転帰・予後との関わりに関しても解析を試みる.
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次年度の研究費の使用計画 |
既に動物モデルによってmTOR阻害剤による腫瘍の抑制効果が得られることを証明してい るが,現在のところ培養系は1種類の明細胞癌株にとどまる.したがって,今後は5種類の明細胞腺癌培養株をヌードマウス右背部皮下および腹腔に2x106個を移植し,腫瘍体積が約100mm3に到達した時点で,各群の腫瘍体積の母平均に差が生じないように各群に割り付け,EverolimusおよびEverolimusと各薬剤の組み合わせで投与を開始する.投与開始より週2回の腫瘍体積を測定する.Everolimusについては15mg/kg/dayを最高投与量とした公比1.5の4群で設定する.抗腫瘍効果の評価には各投与群において実験期間中死亡例を認めず,平均体重を20%以上低下させないMTDを規定し,MTD以下の用量について抗腫瘍効果を判定して統計学的解析を加える.試験終了後に,解剖を行い摘出組織および血清を用いて各薬剤の効果判定を病理学的,生化学的に解析して治療レジメンの確立に向けて指針を策定する.
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