研究課題
本研究は低分化胃癌(スキルス胃癌)における上皮間葉移行に影響をおよぼすマイクロRNA(miRNA, miR)を探索する目的で行われてきている。平成25年度においては、前年度において胃癌の組織標本では低分化になるほどin situ hybridization法によるmiR-200cの発現が低下したことを引き継ぎ、miR-200cの標的であるZEB1・ZEB2の変動、さらにはZEB1・ZEB2により制御されることが知られているE-cadherinの変動を、免疫組織化学的検索にて探索した。その結果、低分化になるほどZEB1の発現が亢進して、E-cadherinの発現が低下することを確認した。また、前年度において胃癌の培養株ではqPCR法によりmiR-200c発現が低い株はZEB1・ZEB2の発現が亢進してE-cadherinの発現が低下していた事実を引き継ぎ、これら細胞株の性質のさらなる探索を施行した。まず、ウエスタンブロット法にてZEB1およびE-cadherinが蛋白レベルでも、おおむねqPCRでの変動を反映して高低を示すことが確認された。さらに、miR-200cの高低が、培養細胞の由来の組織型ないしは原発か転移かに関連するものではなく、培養細胞の形態とよく関連していることを確認した。すなわち、類円形形態の細胞ではmiR-200cが高くZEB1・ZEB2が低くE-cadherinが高いこと、紡錘形形態の細胞ではその逆であることを突き止めた。続いて、遺伝子導入法にて、miR-200cの低い細胞株にmiR-200cを導入することで、ZEB1・ZEB2が低下してE-cadherinが上昇することを確認した。さらには、一部の細胞株では形態が紡錘形から類円形に変化することを確認した。上記の研究成果の一部は、第102回日本病理学会総会(平成25年6月札幌)などで発表した。
2: おおむね順調に進展している
当初より、胃癌の上皮間葉移行に関わると推定されていたmiR-200cおよびその標的に関して、胃癌における発現がほぼ確認され、その発現の多寡が上皮間葉移行に関わる因子と相関する傾向が見出された。まず、組織標本上では、低分化になるほどin situ hybridization法によるmiR-200cの発現が低下、miR-200cの標的であるZEB1の発現が亢進して、さらにE-cadherinの発現が低下することを確認した。次に、培養細胞ではmiR-200cの多寡が細胞形態とよく相関することを見出した。さらには、一部の細胞株ではmiR-200cの導入にて形態が紡錘形から類円形に変化することを確認した。ただし、多くの細胞株でも同様の現象が見出されるかは未確認であり、また、miR-200cの導入にてその標的が変動するかも未確認である。さらには、これら形態変動が、細胞の機能にどのように影響を与えるのか、また細胞形態がどのように組織における分化度と対応するのかの詳細に関しては今後の課題である。
胃癌の組織においても培養細胞においても、miR-200cの高低が、ZEB1・ZEB2の高低と反比例して、E-cadherinの高低と比例する傾向があることが確認された。これらの高低は、組織においては分化度と対応して、培養細胞においては細胞形態と対応することが確認された。今後は、これがどういう意味を有するのかを探索していく。具体的には、一部の培養細胞で確認された、miR-200cの導入にて形態が変化することが、多くの細胞株でも成り立つのか、また、miR-200cの導入にてその標的が変動するのかをqPCR法にて探索する。さらには、ウエスタン・ブロット法による標的蛋白の検出も行う。加えて、これら形態変動が、細胞の機能にどのように影響を与えるのかをinvasion assay法にて検討する。
3月に予定していた実験が試薬の不足等の理由で4月以降に延期となったため。次年度中に、計画されていた実験を遂行する。
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