心筋架橋(MB)は左冠状動脈前下行枝(LAD)の走行途中の一部を被覆する心筋組織であり。日本人の約半数に認められる解剖学的亜型である。われわれは病理解剖例の解析から、MB下LADには粥状動脈硬化症の発生・進展が抑制され、MBの近位部には硬化性病変がより進展することを明らかにしてきた。さらに、MBが厚く長い場合には、近位部の硬化性病変の進展が促進され、心筋梗塞の原因となることを公表した。しかし、これら結果は病理解剖例のLADを5mm間隔で切離して、動脈断面の画像解析により内膜病変の評価を行った結果であり、生体内の血流のある状態とは異なっており、動脈の形状は歪みが生じている。今回の研究では、冠状動脈圧を負荷した状態で、LAD組織を固定し、内膜病変の形成・狭窄に与えるMBの影響を検討した。 本研究では病理解剖例150例を蒐集した。全症例は左冠状動脈の入口へカテーテルを挿入して、85-90mmHgの圧で灌流固定し、5日後LADを採取し5mm間隔で切離。動脈断面の薄切切片をEVG染色し、画像解析装置にて動脈硬化度と狭窄度を計測。MBのある症例は、MBの厚さ、長さ、開始位置を計測。 LADの内膜面積/中膜面積の比率を動脈硬化度としたが、MBの近位ではMB下よりも動脈硬化度が高く、これまでの報告に一致した。また、動脈硬化度と狭窄度は有意に相関しており、灌流固定を行っても、その関係は保たれていた。MBの近位部の狭窄度の高い群では、MBの開始位置より2.0-2.5cm近位部に高度な病変が集中しており、梗塞症例と同様の傾向を示していた。また、50%以上の狭窄性病変を有する症例では、MBを含めた危険因子の多変量解析を行ったところ、狭窄性病変形成に対する有意な独立した危険因子は、年齢だけであった。 今後は、さらに症例数を増やし、MBの近位内膜病変形成に与える影響を検討する必要があると考えられた。
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