研究課題/領域番号 |
24590438
|
研究種目 |
基盤研究(C)
|
研究機関 | 防衛医科大学校(医学教育部医学科進学課程及び専門課程、動物実験施設、共同利用研究 |
研究代表者 |
松原 修 防衛医科大学校(医学教育部医学科進学課程及び専門課程、動物実験施設、共同利用研究, 医学教育学部医学科専門課程, 教授 (40107248)
|
研究分担者 |
石川 雄一 公益財団法人がん研究会, その他部局等, その他 (80222975)
|
研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
|
キーワード | 肺線維症 / 病理発生機序 / EGFR変異肺癌 |
研究概要 |
EGFR変異肺癌に対してゲフィチニブが強力な腫瘍縮小効果があるが、副作用として間質性肺炎/肺線維症(IP/LF)から呼吸不全死を引き起こす。ゲフィチニブ治療によるIP/LF発症のリスクの予想がつくと治療を安全に行えるのではないかと考え、IP/LF発症のリスクの予想を可能とすることを目的として研究を進めている。 IP/LFの病理組織で活動性の線維芽細胞巣(AFF)に筋線維芽細胞が出現する。この筋線維芽細胞が上皮-間葉移行(epithelial-mesenchymal transition : EMT)によって肺胞上皮に由来するのではないかと疑われている。AFFはIP/LFの特徴的な組織像であり、線維化反応の始まりの部位と思われる。AFF形成におけるEMTの関与を細胞学的に、また分子学的な機構を調べ、その組織構築の改変の役割を検討した。16例のIP/LFのVATS肺生検の材料と対照症例について、E-cadherin, beta-catenin, vimentin, alpha-smooth muscle actin (SMA), tissue growth factor (TGF)-beta, Ki-67, and connective tissue growth factor (CTGF)を種々の抗原賦活法を用いた後、免疫組織学的に検討した。AFFの紡錘形細胞はalpha-SMA、vimentinに陽性で、筋線維芽細胞と思われる。増生した肺胞上皮はE-cadherinとbeta-cateninの染色性が全体的、部分的に消失、上皮はTGF-betaとCTGFに染色された。Ki-67陽性細胞は肺胞上皮も筋線維芽細胞も増加した。AFFの場所で肺胞上皮からのTGF-betaが筋線維芽細胞を刺激して増生し、EMTが始まりの重要な役割をはたしていると考えられた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
ゲフィチニブは、EGFRのチロシンキナーゼを選択的に阻害する内服できる抗がん剤で、手術不能または再発した非小細胞性肺癌に対する治療薬として用いられている。ゲフィチニブにより縮小した肺癌のEGFRに遺伝子変異が認められ、この遺伝子変異とゲフィチニブの臨床効果の間に強い相関が発見された。遺伝子変異を持ったEGFRは、そのATP結合部位に構造変化が生じる結果、EGFRが恒常的に活性化して悪性度が高まる一方、ゲフィチニブとの親和性が高まり、EGFRの下流のシグナルが遮断されることによりアポトーシスが誘導され、腫瘍縮小効果を示し、非喫煙者、腺癌、女性、東洋人ではEGFRの遺伝子変異をもつ割合が高いために腫瘍縮小率が高いことが分かり、我々の症例の検討でも確認している。 ゲフィチニブの副作用として、急性肺障害・間質性肺炎を併発することがあり、特に日本での肺障害、それによる死亡の報告が多い。日本でゲフィチニブ投与後8週間以内の急性肺障害・間質性肺炎の発症率は約5.8%(193例/3322例)、肺障害による死亡率は2.3%(75例/3322例)と報告されている。ゲフィチニブによる肺障害の病理像を検討すると、びまん性肺胞傷害(diffuse alveolar damage:DAD)のパターンであり、これの滲出(急性)期か増殖(器質化)期であることが多く、線維化期であることは少ない。広い意味では肺線維症の中に入れられるが、蜂窩肺病変を伴うような肺線維症ではなく、急性期の薬剤性肺炎の一つである。慢性の間質性肺炎(usual interstitial pneumonia:UIP)が存在していたと考えられる少数の症例も存在する。この場合UIPの急性増悪とどう鑑別するのかという問題が生じる。この問題も取り組んでいる。 新しい方法論的なところ、また関連分野では、種々の発表を行った。
|
今後の研究の推進方策 |
ゲフィチニブを投薬した症例の中から、副作用として、急性肺障害・間質性肺炎を併発した症例について、(1)より詳細な臨床経過、症例の再発、ゲフィチニブ投与量、投与期間の治療、肺障害の有無と種類をチェックする。(2)耐性変異の検索について、 (公財)がん研究会有明病院で腫瘍切除を受け、EGFR変異肺癌と確認された約600例の中で、本研究の対象とする30例について耐性変異(exon20のT790Mおよびexon20の挿入変異)の有無を検索する。(3)方法論の確立について、EGFR変異肺癌の再発した症例の手術材料を用い、肺線維症発症した群と肺病変のないものの群に分けて、病理組織の解析、またAffymetrixおよびAxiomのSNPアレイSNP解析と発現タンパクのプロテオーム解析を行い、比較する。数例によって方法論を確立する。プロテオーム解析でも数例によって方法論を確立する。(4)症例数を増やして、AffymetrixおよびAxiomのSNPアレイSNP解析と発現タンパクのプロテオーム解析を行い、比較する。(5)600例全例で、いわゆる感受性変異(exon19の欠失、exon21のL858R、ほか)は既に検索しており、今後30例ほどについて耐性変異(exon20のT790Mおよびexon20の挿入変異)の有無を検索する。(6)SNP解析では、Affymetrix(Affymetrix® Genome-Wide Human SNP Array 6.0)およびAxiomのSNPアレイを用いる。Affymetrixのアレイは、世界的に広く使われているが、欧米人のゲノム検索に適合した設計となっており、必ずしもアジア人の検索に適しているとは言えない。その点で、Axiomのアレイは、アジア人でのSNP解析に適していると考えている。
|
次年度の研究費の使用計画 |
(1)耐性変異の検索について、肺腫瘍切除を受け、EGFR変異肺癌と確認された約600例の中で、本研究の対象とする30例について耐性変異(exon20のT790Mおよびexon20の挿入変異)の有無を検索する試薬類。 (2)EGFR変異肺癌の再発した症例の手術材料を用い、肺線維症発症した群と肺病変のないものの群に分けて、AffymetrixおよびAxiomのSNPアレイSNP解析を行い、比較するためのチップ類。Affymetrix(Affymetrix® Genome-Wide Human SNP Array 6.0)およびAxiomのSNPアレイを用いる。Affymetrixのアレイは、世界的に広く使われているが、欧米人のゲノム検索に適合した設計となっており、必ずしもアジア人の検索に適しているとは言えない。その点で、Axiomのアレイは、アジア人でのSNP解析に適していると考えている。 (3)肺線維症発症した群と肺病変のないもの両群での、発現タンパクのプロテオーム解析を行い、比較する。プロテオーム解析に用いる試薬類。 (4)免疫組織化学用の試薬類。
|