研究課題/領域番号 |
24590438
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研究機関 | 公益財団法人がん研究会 |
研究代表者 |
松原 修 公益財団法人がん研究会, がん研究所病理部, 研究員 (40107248)
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研究分担者 |
石川 雄一 公益財団法人がん研究会, がん研究所病理部, 部長 (80222975)
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キーワード | 肺線維症 / 間質性肺炎 / 病理発生機序 / EGFR変異肺癌 |
研究概要 |
上皮成長因子受容体 (EGFR)変異のみられる肺癌に対して、ゲフィチニブ(Gefitinib)はチロシンキナーゼを選択的に阻害する内服できる抗がん剤(商品名は「イレッサ (Iressa)」という)で、強力な腫瘍縮小効果がある。しかし、ゲフィチニブは副作用として肺障害を生じ、重篤な場合は間質性肺炎・肺線維症から呼吸不全死を引き起こす。ゲフィチニブ治療による肺線維症発症のリスクの予想がつくと治療を安全に行えるのではないかと考えて研究を進めている。 間質性肺炎・肺線維症の病理像で大切なのは、肺胞の破壊、虚脱、細気管支拡張、線維芽細胞巣であり、終末となると広範な線維化と蜂窩肺病変の拡大である。死亡後の剖検で見るのは終末像が多いが、間質性肺炎・肺線維症の進展で重要なのは線維芽細胞巣の活性化と肺胞の破壊である。線維芽細胞巣の活性化の時に肺胞上皮の壊死、特にアポトーシス、筋線維芽細胞の出現が生じる。 この線維芽細胞巣の活性化での分子的な機構、組織構築の改変を、20例の症例について検討した。材料は間質性肺炎・肺線維症と診断した症例のVATS肺生検と対照症例10例の病理材料で、E-cadherin、β-catenin、vimentin、desmin、α-smooth muscle actin、TGF-β、CTGF、Ki-67などを免疫組織学的に、またTUNNEL法とラダー法でアポトーシスを検討した。 線維芽細胞巣の紡錘形細胞はα-smooth muscle actin、vimentin、desminに陽性で、肺胞上皮にアポトーシスがみられ、再生と思われる増生した肺胞上皮にはTGF-β、CTGFが陽性で、両者ともKi-67の陽性が増加していた。筋線維芽細胞の出現は肺胞上皮の壊死、再生、上皮-間葉移行によるのではないかと考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
ゲフィチニブ(Gefitinib)はEGFRのチロシンキナーゼを選択的に阻害する内服できる抗がん剤で、手術ができないか再発した非小細胞性肺癌に対する治療薬として用いられている。ゲフィチニブにより腫瘍縮小効果があった肺癌のEGFRに遺伝子変異が認められ、この遺伝子変異とゲフィチニブの臨床効果の間に強い相関が発見された。遺伝子変異を持ったEGFRは、そのATP結合部位に構造変化が生じる結果、EGFRが恒常的に活性化して悪性度が高まると考えられている。一方、ゲフィチニブとの親和性が高まり、EGFRの下流のシグナルが遮断されることによりアポトーシスが誘導され、腫瘍縮小効果が表れる。非喫煙者、腺癌、女性、東洋人でEGFRの遺伝子変異が高い割合でみられることが分かってきて、我々もそのことを確認している。 ゲフィチニブの副作用として肺障害を生じ、間質性肺炎・肺線維症から呼吸不全死を引き起こすことがあり、特に日本で報告例が多くみられる。ゲフィチニブ投与後8週間以内の発症率は約6%、死亡率は約2%と報告されている。治療による肺線維症発症のリスクの予想がつくと治療を安全に行えるのではないかと考えて研究を進めているのだが、ゲフィチニブの副作用として肺障害の病理像を検討すると、びまん性肺胞傷害のパターンであり、滲出期(急性期)か増殖期(器質化期)であるもので、慢性化した線維化期であることはなかった。急性期の薬剤性肺炎の一つと考えられた。慢性の通常型の間質性肺炎が潜在的に存在していたと思われる症例も少数認められたが、これを間質性肺炎の急性増悪と考えるのか、別項の事象と考えるべきか鑑別が難しい。
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今後の研究の推進方策 |
ゲフィチニブを投与した症例の中から、副作用として肺障害を併発した症例について、 1.より詳細な臨床経過、再発時期、投与量、投与期間、肺障害の有無と種類をチェックする。 2.耐性変異の検索を行う。 3.EGFR変異肺癌の再発した症例の手術材料を用い、肺障害を発症した群と肺病変のない群で、SNPアレイ解析を行う。 4.また、同様の群において発現タンパクのプロテオーム解析を行い、比較する。
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次年度の研究費の使用計画 |
ゲフィチニブを投与した症例の中から、副作用として肺障害を併発した症例について、耐性変異の検索を行うところとSNPアレイ解析を行うところの方法論の準備に意外と手間取り、失敗が重なったため研究の遂行が遅れたため、次年度使用研究費が生じました。 以下の項目に使用の予定です。1.耐性変異の検索:exon20のT790Mおよびexon20の挿入変異を検索する試薬、2.AffymetrixおよびAxiomのSNPアレイ解析のためのチップ類、3.プロテオーム解析のための試薬類、4.免疫組織化学の試薬類などです。
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