超音波顕微鏡(SAM)画像の感度を上げるために、以下のような方法を用いた。第一に組織切片は厚さを10ミクロン以上15ミクロン以下に調整し、平坦な切片を用いた。第二に観察目的により、低倍率には250MHz高倍率には400MHzのプローブを用いた。第三に細胞画像では液状検体から単層の細胞標本を作って観察に用いた。 特異性をあげる工夫として、抗体を用いて特異的な細胞同定を試みた。標識法として金コロイドまたはNi-DAB法をもちいて、金属沈着部位の描出が可能となった。 SAMを用いて、胃の腫瘍および甲状腺組織の組織画像や細胞診画像の描出に成功し、学術集会ならびに論文に発表した。 胃では正常に認められる層状構造が描出でき、膠原線維や筋線維の多い部分の音速が早く、細胞密度の低い部分や変性した部分の音速は遅かった。音速は実際の組織硬度をよく反映していた。胃の腫瘍はそれぞれの発生由来組織に近く、硬癌と高分化腺癌、硬癌と悪性リンパ腫、平滑筋腫と平滑筋肉腫の間で音速に有意差が認められた。 甲状腺組織では濃縮されたコロイド、赤血球、膠原繊維の音速が高く、薄いコロイド、副甲状腺、リンパ濾胞、上皮組織の音速は低かった。 SAMは光学顕微鏡と比較して以下のような特性を持つことがわかった。未染色で数分で詳細な組織画像を得ることができる。組織構造の乱れを検出することで、悪性の判定が可能である。組織を通過する音速はそれぞれの組織固有であり、組織の弾性を反映している。組織ごとの音速を統計学的に比較することができる。音速はコロイドの濃度を反映し、濃縮度から甲状腺の機能を推測できる。腫瘍の中では低分化腫瘍ほど音速が低く、組織分類の予測が可能である。
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