研究課題
基盤研究(C)
平成24年度の研究計画は、ERO1-Laの機能を阻害する低分子化合物をスクリーニング・同定し、新しい分子標的療法を開発することである。そこで、まずERO1-La阻害による抗腫瘍効果を確認するために、short hairpin RNAを用いてERO1-Laのノックダウン株を作成した。マウス乳癌細胞株および臨床応用を念頭に置き、ヒト大腸癌細胞株および膵臓癌細胞株を用いて検討した。BALB/cマウスあるいはSCIDマウスに移植し、その腫瘍増殖を比較検討した。マウス乳癌細胞株4T1細胞、ヒト大腸癌細胞株SW480、ヒト膵臓癌細胞株Panc1のいずれにおいてもERO1-aノックダウン細胞株は、野生株と比較して明らかに腫瘍増殖が抑制された。マウス乳癌4T1を用いた検討では、肺転移の顕著な抑制も認められた。その機序として、ERO1-Laノックダウン細胞による腫瘍では、野生株と比較して、VEGF-A産生抑制とこれに伴う新生血管の密度が低下していた。マウス乳癌細胞株4T1では、ERO1ノックダウン細胞では、肺転移能が著明に減少していた。そのメカニズムを解明するために、マトリゲルを用いた検討およびscratch testを用いて検討した結果、浸潤能・運動能も低下していることが明らかとなった。このように、腫瘍において高発現しているERO1-Laの発現ないし機能を抑制することは、新たな癌治療となると考えられた。現在、ERO1-La機能阻害可能な低分子化合物をスクリーニング中である。具体的には、組換え型ERO1-Laとその標的蛋白質であるPDIとのジスルフィド結合形成の抑制をSDS-PAGEを用いて、スクリーニングを行っている。
2: おおむね順調に進展している
平成24年度は、ERO1-Laの発現抑制により各種癌において、抗腫瘍効果を得ることが確認された。また転移能も抑制可能である。これは、ERO1-LaがVEGF-Aの産生に関わり、血管新生に重要な役割を果たしていることが1つのメカニズムと考えられた。ERO1-Laの機能阻害する低分子化合物のスクリーニングは現在継続中である。
平成25年度は、引き続きERO1-Laの機能阻害活性を示す化合物のスクリーニングを継続する。さらに、もう1つの柱である HLA-A24およびHLA-A02に提示されるERO1-La由来の癌抗原ペプチドの同定を行う。すなわち日本人の70%をカバーできるHLA-A24あるいはHLA-A02に提示され、特異的な癌細胞障害性T細胞を誘導できる癌抗原ペプチドを同定する。ERO1-Laは正常組織での発現は非常に限定されており、各種の腫瘍では高発現していることから、癌免疫療法の良い標的となると考えられる。コンピュータによりスクリーニングした候補ペプチドを、HLA-A24トランスジェニックマウスに免疫し、ペプチド特異的細胞障害性T細胞の誘導能を検討するものである。これらのHLA結合親和性を有するペプチドを用いて、健常人および担癌患者の末梢血リンパ球をこれらの候補ペプチドを用いて刺激培養を行い、ペプチドをパルスした抗原提示細胞を認識するリンパ球を誘導し、さらに実際に腫瘍を傷害できる細胞障害性T細胞が誘導可能かにつきELISPOTアッセイを用いて検討する。また我々はHLA-A24トランスジェニックマウスに化学発癌させて樹立したTG3線維肉腫細胞株を樹立している。このTG3細胞はマウスERO1-Lαを発現している。さらにHLA-A24に提示される抗原ペプチド配列がヒトとマウスで共通である可能性が高い。そのためHLA-A24トランスジェニックマウスとTG3細胞を用いた治療実験は、前臨床試験として有用である。具体的には、あらかじめTG3腫瘍を樹立したHLA-A24トランスジェニックマウスに、in vitroで同定したERO1-Lα阻害剤を投与し、その後ERO1-Lα由来の癌抗原ペプチドを用いた免疫療法を行い、腫瘍増殖に与える効果、生存率を比較検討し、その有効性を検討する。
引き続き腫瘍細胞培養、大腸菌などの細胞培養に用いるサイトカイン、培養液、培養器具、遺伝子合成費、ERO1-La精製に用いる試薬類、合成ペプチド作成費、免疫用のマウス購入費に必要とする。平成26年度には、細胞培養などの培養に関わる費用、ERO1-La精製に関わる試薬、フラスコ、ピペットなどの消耗品、マウス購入に必要とする。
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