研究実績の概要 |
本年度は主に2つの候補遺伝子に焦点を絞って発癌過程における機能解析を行った. まずPROM1についてであるが,2009年から2012年まで本学附属病院にて外科手術より切除された肺腺癌134症例と扁平上皮癌71症例のFFPE組織標本を用いPROM1タンパク質の発現を明らかにし,その発現の意義を検討した.肺腺癌134例中PROM1の発現が認められたのは64例の48%であった.この結果から,肺腺癌の発生過程におけるPROM1は機能タンパクとしての関連性が低いと推測された.一方,扁平上皮癌についてであるが,癌細胞においてPROM1タンパクの発現が認められたのは71症例中僅か9例の13%であった.裏を返せば87%の扁平上皮癌においてPROM1タンパク質が発現していなかったという結果であった.このことから,PROM1は肺扁平上皮癌の発生過程において,がん幹細胞の機能タンパクではないことが明らかとなった.また,非癌部気管支粘膜上皮細胞においてPROM1タンパク質が恒常的に発現していることも判明した.これはPROM1タンパクが正常気管支粘膜上皮細胞の構造または機能を維持するのに重要であることを示唆していた. これまでの解析結果を基にして,8番染色体短腕領域に存在する候補遺伝子MTUS1は新規のがん抑制遺伝子である可能性を示唆してきた.今年度は外科手術より切除された早期段階の肝細胞癌34症例および病理解剖より得られた遠隔転移を伴う進行型肝細胞癌22症例64病変を対象とし,自ら作製した抗MTUS1タンパクの特異抗体を用い,肝細胞のがん化過程におけるMTUS1タンパク質の発現変動を検討した.75%の肝癌症例において,がん化と共にMTUS1タンパクの消失が確認された. また,2015年3月に新WHO肺癌分類が提唱されたのを受けて,これまでに蓄積した250症例の組織標本を新組織分類基準に基づき再評価した.
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