研究課題
基盤研究(C)
ミトコンドリア転写開始領域付近には、DNAが3本鎖を形成している部分があり、その形が大文字のDに似ていることからD-loop(あるいはDisplacement loop)と呼ばれている。D-loopでは、7SDNAが環状のミトコンドリアDNAのH鎖と2本鎖を形成し、ミトコンドリアL鎖と、R-loopがDNA/RNA hybridを形成すると考えられている。ミトコンドリアDNAの合成と、7SDNAの合成は異なった制御を受け、7SDNAは細胞周期のS期に多く合成されるのに対し、ミトコンドリアDNAは、細胞増周期との関連はないとされている。またR-loopも細胞増殖に伴い増加するとされている。我々は、7SDNAとR-loopに着目し、それらの発現と細胞周期との関連を明らかにするべく、マウス線維芽細胞NIH3T3をウシ胎児血清存在下と無血清で培養し、In situ hybridizationにより発現量を検討した。その結果、7SDNAとR-loopは無血清培養と10%血清培養では、発現パターンが変化し、後者では核に近接する、あるいは核内に存在しているようにみえた。培養細胞の核内と細胞質内からDNAを抽出し、PCR法にて検討を試みた結果、この局在は、核内ではなく、核膜に付着する形であることが明らかとなった。
3: やや遅れている
ヒト由来細胞株(Panc1、PSN等)、マウス由来細胞株(NIH3T3等)を用いて、細胞周期、培養液Glucose濃度、dNTP濃度、酸素濃度等を変化させ、7SDNAとR-loopの発現パターンをIn situ hybridization を用いて検討した。当初は、核内に存在すると考えたが、研究を進めるにつれて、核膜周囲の局在であることが明らかになり、培養条件の変化による局在の変化の推移を定性的に評価し難い側面がある。
近年、ミトコンドリアRNAの精子核内移行の報告(Villegas et al., DNA Cell Biol. 2000)やミトコンドリア由来のnon-coding RNAの報告(Lung et al., Nuclear Acids Res. 2006, Villegas et al., Nuclear Acids Res. 2007)があり、ミトコンドリアDNA/RNAがよりダイナミックに細胞全体の制御に関連する可能性が示唆されている。D-loop領域のDNA/RNAである7SDNAとR-loop以外のこれらの機能解明が十分行われていないRNAについても検討を加え、ミトコンドリアRNA合成が細胞全体に及ぼす影響を検討したい。
ヒト、マウスそれぞれの7SDNA、R-loopをDigoxygenin、蛍光標識、あるいは放射性同位元素標識をつけて合成する。培養細胞に導入したうえで、細胞内分布、生物学的意義について検討を行う。増殖能、浸潤能等について、検討するとともに、RNA、タンパク質発現プロファイルについても検討を行う。さらに、R-loopに対するノックダウン効果のあるsiRNAを構築し、検討を行う。手術摘出され保存されているパラフィンブロック標本を用いて、薄切切片を作成し、7SDNA、R-loop に対するIn situ hybridizationを行う。発現パターンと腫瘍の大きさ、深さ、脈管浸潤の有無、転移の有無、生命予後との検討を行う。転移向性の高い、乳癌、肝臓癌、胃癌、大腸癌、膵臓癌、肺癌等について、これらの検討を行いたい。特に、細胞増殖と7SDNA、R-loop発現パターンとの関連を様々な腫瘍において検討することにより、その臨床病理学的な意義を明確にすることも目的としたい。
すべて 2013 2012
すべて 雑誌論文 (5件) (うち査読あり 5件)
Am J Pathol.
巻: 182 ページ: 1876-1889
10.1016/j.ajpath.2013.01.039
Ann Surg Oncol
巻: 20 ページ: 542-546
10.1245/s10434-012-2608-8.
J Gastroenterol Hepatol
巻: 28 ページ: 274-278
10.1111/jgh.12059.
World J Surg.
巻: 37 ページ: 169-178
10.1007/s00268-012-1775-x.
Ann Vasc Surg.
巻: 26 ページ: 693-699
10.1016/j.avsg.2011.12.003.