研究課題/領域番号 |
24590462
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研究機関 | 琉球大学 |
研究代表者 |
加藤 誠也 琉球大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (60268844)
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キーワード | 血管平滑筋細胞 / 形質転換 / 動脈硬化 / リゾフォスファチジン酸 |
研究概要 |
血管平滑筋細胞は増殖能、膠原線維等の間質を合成、分解する機能を有し血管壁の形態学的構築を維持すると伴に、種々の血管侵襲刺激に対応して多彩な形質転換を示し血管病態の形成に重要な役割を果たしている。近年、生活習慣病的リスクの集積した患者における血管壁の慢性炎症が、粥状動脈硬化をはじめとする血管病の発症、進展に重視されているが、内因性の起因刺激として特に重要なものが酸化LDLであり、それには平滑筋細胞の形質転換を強く導くとされるリゾフォスファチジン酸(LPA)も含んでいる。LPAは低分子量G蛋白と共役した7回膜貫通型レセプターを介して作用するとされるが、現在まで6種類同定されているレセプターアイソフォームのそれぞれの役割は明らかではない。本研究では平滑筋細胞の形質転換におけるLPAシグナリング、特に近年同定されたLPA4のシグナリングについての解明を目的としている。本年度はLPAに感受性の高い継代数の若い細胞を得るためにラット平滑筋細胞の初代培養を行い、Explant法、酵素法により細胞株を得たが、培養法の違いによるLPA(100nM-1uM)刺激に対する増殖刺激効果の差は明らかではなかった。既にヒトや齧歯類由来の培養平滑筋細胞では6種類のLPAレセプターアイソファーム(LPA1-6)の発現をRT-PCR法で確認しており、形質転換の表現型はLPA1-6の下流での複雑なシグナリングクロストークの結果もたらされると予想される。LPA1-6はそれぞれ特徴的な低分子量G蛋白の活性化経路を有し、いくつかの転写因子活性の差異により、それぞれのレセプターアイソファームの活性化を予測しうるため、引き続きラット平滑筋細胞にSRF-RE、AP-1、NFAT、SRE、 CREおよびNFkBの各転写因子を発現するレポータープラスミドを遺伝子導入した安定細胞株の作製を開始した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では平滑筋細胞の多彩な形質変化を観察するためのin vitro培養系が必要であるが、最も簡便な脱分化型ないし合成型平滑筋への転換指標である増殖能亢進について、特に継代数を経た細胞での応答性が一定しない例を経験したため、ラット平滑筋細胞の初代培養を再実施し、細胞の同定やLPA応答性を検証したため当初の予定よりも実験の遂行に時間がかかっている。しかしながら、この事象は継代が若く本来、増殖性の高い細胞と老化した細胞形質ではLPAシグナリングの利用機序が違うことを示唆しており、なんらかの血管病態との関連も予感させる。培養系の再構築を施行した上で当初、計画したように各種継室発現時のLPA刺激時にどのようなレセプターアイソフォームの下流シグナリングがより重要か、あるいはLPA4の利用度変化に対応して細胞形質やLPA応答性がどのように異なるかを明らかにする予定である。その他、特異性については留意して用いる必要はあるが、シグナリング解析に汎用される種々の阻害薬(Rho inhibitor: Y-27632、PKC: inhibitor, GF109203X、MAPK inhibitor: PD98059等)の効果については喉頭癌由来細胞株も含めてLPAの効果を確認した。またLPA4遺伝子の導入方法についても準備している。以上のように培養系再構築に要した期間にレポーターアッセイの準備に着手するなど並行して研究計画を進めて来たため、研究計画全体としては大きな遅れは生じていないため、当初計画した研究計画はおおむね順調に進展しているものと判断される。
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今後の研究の推進方策 |
平成26年度は、前年度に引き続き各種LPAレセプター下流のシグナリングの応答様式に着目する事により、どのレセプターアイソフォームが血管平滑筋細胞の形質転換刺激として重要か、あるいはどのような形質転換時にどのレセプターアイソフォームの作用が重要であるかを予測するためのレポーターアッセイを中心にin vitroでの解析を進める予定である。既に初年度に導入したシングルチューブ型ルミノメータを用いて、ラット培養平滑筋細胞においてホタル遺伝子および内部コントロールとしてウミシイタケ遺伝子の生物発光を利用したレポータープラスミドの一過性発現システムを構築し静止期細胞への血清やPDGF等の一般的な増殖因子への応答を確認しており、引き続き抗生剤選択による安定細胞株の樹立を確認した上で、静止型、増殖型、炎症型、老化型などの各形質転換モデルを用いて、LPA単独での作用、PDGF、bFGFやinsulin等の増殖因子との協同作用を検討する。そして、LPAの各レセプター相磯ファームの意義の予測の基にLPA4発現レベルの強弱による形質転換やシグナリング作用機転の差異についての検討を進めたい。なおげっ歯類とヒトの平滑筋細胞ではLPA等の脂質メディエーターの代謝経路も含め、形質転換に関する細胞内現象が異なっている可能性もあるため、種差に関する検討も考慮したい。また研究の最終年度であるためデータの検証、追加実験あるいは考察を進め、得られた知見に関する血管病理学あるいは循環器病学に関連した国内外の学会発表、誌上発表の可能性についても検討したい。
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