研究実績の概要 |
アンドロゲン非依存性能を獲得した前立腺癌ではMID1発現が亢進していることから、前立腺癌進展に関わるMID1の機能について解析した。MID1のAR転写活性に対する影響を、アンドロゲン依存性LNCaP細胞を用いて検討した結果、MID1発現量に相関してAR転写活性が増強した。MID1を強制発現させたLNCaP細胞では、核および細胞質にMID1タンパク発現が観察され、その発現量は両者ともアンドロゲン存在下で亢進した。以上の結果から、MID1タンパクは新規のARコアクチベーターである事が示唆された。MID1と同じTRIMファミリー分子であるTRIM24, TRIM68はARコアクチベーターとして知られており、アセチルトランスフェラーゼ活性を有するTIP60, p300と結合することでAR転写活性を制御している。そこで、TIP60, p300との相互作用の有無について検討したが、MID1によるTIP60, p300転写活性増強効果は認められず、MID1のARコアクチベーターとしての機能は、これらの転写因子との相互作用によるものではない可能性が示唆された。そこで、別のメカニズムを想定し、アンドロゲン非依存性LNCaP-AI細胞で高発現している遺伝子として、熱ショックタンパクの1つであるalphaB-crystallin (CRYAB, HspB5)に着目した。MID1と同様に、CRYABをLNCaP細胞に強制発現させることでその浸潤能を亢進させ、LNCaP-AI細胞におけるCRYABをknockdownさせることで、その浸潤能が抑制されることが明らかとなった。LNCaP-AI細胞におけるMID1をknockdownすると、CRYABの発現も低下することが確認されたが、MID1とCRYABの二重蛍光免疫染色では両者の核内における会合・結合を示唆する像はみられなかった。これらの結果から、MID1による前立腺癌浸潤能亢進機能は、その下流に存在するCRYABを介したものである事が示唆されたが、その制御は直接的ではなく、何らかの分子を介したものである事が考えられた。
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