研究課題/領域番号 |
24590467
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研究機関 | 国立医薬品食品衛生研究所 |
研究代表者 |
平林 容子 国立医薬品食品衛生研究所, 安全性生物試験研究センター毒性部, 室長 (30291115)
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キーワード | 造血幹・前駆細胞 / 幹細胞ニッチ / 生体異物相互作用 / 細胞周期 / 酸化的ストレス |
研究概要 |
本年度は、初年度における定常状態での各種遺伝子改変動物での解析に引き続き、電離放射線やベンゼンといった生体異物による酸化的障害下での、造血幹・前駆細胞とこれを支えるニッチの機能を、生命活動維持の生理と生体障害の両面から明らかにすることを計画し、主に放射線の影響に重点を置いて解析を進め、以下の成果を得た。 即ち、2Gyのガンマ線の単回全身照射後、経時的に造血幹・前駆細胞数や、造血幹・前駆細胞における2',7'-dichlorofluorescein diacetateの蛍光強度を指標とした活性酸素種(ROS)量、細胞動態の解析の為のBromodeoxyuridine (BrdU)の取り込み分画、などの計測、及び、遺伝子発現解析を行った。分化型の血球数は照射直後に減少するものの、6週間程度で回復した。一方、造血幹・前駆細胞分画ではその分化階層の未熟な分画ほど回復の遅延が見られ、より未分化な造血幹細胞(lineage陰性, c-kit陽性, stem cell antigen 1 [Sca1]陽性 [LKS])分画では、その回復は非照射群の40%に留まった。この時、LKS分画ではROS量を反映する蛍光強度の有意な増強が観察された。また、コロニー形成性の造血前駆細胞のBrdUの取り込み分画は、照射4週間後には有意な減少を示すが、照射10.5ヶ月後には有意な増加に転じた。LKS分画についても解析の為の検体を保存した。こうした未分化分画における数的回復の遅延の分子背景を検討する目的で、照射4週後ないしは加齢マウスの骨髄細胞における網羅的遺伝子発現解析で注目された細胞増殖やアポトーシスの関連遺伝子について、骨髄細胞及びLKS分画における遺伝子発現の定量PCR法による解析を進めた。照射4週後の骨髄細胞ではこれまでの結果がよく再現され、ATM/CHEK2/Trp53 pathwayの活性化やAKT/PI3K pathwayの抑制に符合する一連の遺伝子の発現変動が見られた。さらに、LKS分画でも同様の変化が観察され、骨髄細胞一般でもLKS分画でもアポトーシスの進行が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
概要に記載した成果に併行して以下の解析を進め、得られた成果の一部は、研究発表の項にあげたとおり、雑誌や、招聘講演を含む、関連学会などで発表した。なお概要で触れた、照射後のLKS分画レベルでのBrdU取り込み分画の解析に多少の遅れが出ているものの、検体の採取は終えており、研究計画全体の達成度としては、概ね順調に進展している。 即ち、まず初年度に静止期分画の成立に直接的な機能を有することが示唆されたCx32について、骨髄再建能を指標として、連続骨髄移植法を用いた造血幹細胞機能の解析を進めることとした。その結果、特にCx32欠失 (KO) マウスでは、LKS 分画のdonorとして用いるマウスの加齢と共に再建能の低下が顕在化することが示唆される結果を得た。 また、新生児期の造血幹細胞動態についても解析を進め、Thioredoxin (Trx)-KOマウスのBrdU取り込み分画が、Trx過剰発現 (Tg) マウスとは逆に野生型に比べて大きい傾向などを観察した。これは、造血前駆細胞の数が野生型よりも、Trx-Tgマウスでは有意に少なく、Trx-KOマウスでは有意に多いことと符合する結果として興味深い。尚、分化型の前駆細胞においては、野生型でも、Trx-Tgマウスの同腹マウスと、Trx-KOマウスのそれとで同様の数的差異が観察されており、胎児期の同腹マウスに起因する何らかの要因の造血組織の発生に与える影響を示唆するデータと考えている。 更に本年度の計画としての、ベンゼンの影響についても、ベンゼン曝露によって変動する遺伝子発現を制御する因子の野生型マウスの系統毎の特徴を明らかにすべく、C57BL/6とC3H/Heとでそれぞれ個体別の遺伝子発現を電算的に解析した。更に、造血幹細胞レベルでのベンゼン不応性を示すaryl hydrocarbon receptor (AhR)-KOマウスを対照として利用することなども考慮しつつ、ベンゼンによる白血病発症機序の解明を企図した細胞動態や総血微小環境の解析のための予備検討を進めた。
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今後の研究の推進方策 |
計画に従い、特に電離放射線による酸化的障害誘発条件下への加齢影響を中心に、造血幹・前駆細胞やその支持組織の細胞生物学的・分子生物学的解析に取り組むともに、当初計画よりも多少の遅れの出ているLKS分画レベルでのBrdU取り込み分画の解析をすすめ、最終年度としての成果をとりまとめる。 尚、21ヶ月齢のマウスの未分化造血幹・前駆細胞では、2週間のBrdUの持続標識によって、若齢個体に比べて静止期分画の拡大がみられるが、8週齢からBrdUの持続標識をした場合、18ヶ月齢にいたるまで、その静止期分画は一定値を示す。但し、BrdUの持続標識による解析では、標識期間中に一度BrdUを取り込んだ細胞が静止期分画に移行した場合でも細胞回転分画とみなされるため、静止期分画の拡大を検出できない。そこで12ヶ月齢以降3ヶ月毎などの加齢個体によるBrdUの取り込み分画の大きさがplateauに達する2週間程度の持続標識後の細胞動態の解析を通じて、18ヶ月齢以降の、BrdUの取り込み分画の大きさと裏腹の関係にある静止期分画が、急速に拡大に転じるのかの如何についても検討する。また、若齢期におけるガンマ線やベンゼンなどの曝露経験が、その後の加齢に伴う、造血細胞周期静止期分画の拡大、造血組織の各分画毎の細胞内酸化的ストレスの蓄積、あるいは造血支持組織の支持能の低下、などに与える影響を明らかにする。
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次年度の研究費の使用計画 |
年度内の請求を予定していた別刷りの印刷及び国際輸送費用の請求が、次年度にずれ込んだことが、主な理由である。 本研究の申請時の準備状況等の項に記載した通り、必要な備品はほぼ整っている。消耗品費としては、LKS分画の分取や解析、あるいは造血前駆/支持細胞の解析に関わる試薬類や使い捨ての器具類、自繁の為の交配用ないしは遺伝子改変動物を用いない野生型のみの実験の為のマウスの購入及びその飼育維持費などに充てられる。また適宜、成果の発表の為の国内外での研究集会への参加費を計上しているもので、全体的に妥当な内容と考えられる。
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