研究課題
1) 正常ヒト線維芽細胞株(TIG series 7株)において、テロメア短縮による染色体癒合の発現頻度とテロメア動態との相関について計測PDLを増やし、DNAを抽出して解析中。2) WS患者由来の線維芽細胞株(WRN欠失細胞)において、供与者年齢補正後の正常線維芽細胞との比較でWS線維芽細胞の分裂能が低いこと(最大PDLが正常株より小さい)を解析株数を増やして(最終PDLまで培養し)明らかにした。3)(研究協力者豊田雅士博士らとの共同研究から)山中4因子導入によりiPS細胞(ヒト線維芽細胞株由来)の樹立を試みている。リプログラム過程でテロメア伸長が確認された。細胞老化に近くテロメア短縮を示すTIG-1細胞株において、培養早期の(PDL少ない)株と比べトランスフォーム効率が低下する傾向がしめされ、また、親株で短いテロメアがより効率良く伸長させられることが見出された。これらは、以下に述べる事実とも合わせ、リプログラム過程でのテロメア伸長の一般的な特徴であることが推測された。(以下の2項は本課題内容とは直接関わらないものの、本研究者の所属する研究チームのヒト病態におけるテロメア動態の解析の一環として、本研究者が論文作成に直接関わり、本研究とも密接に関連するので特記する。)4) 21番染色体トリソミー(ダウン症候群)患者の新生児期のリンパ球はコントロール群と比較してテロメア長に有意に差異は認めなかった。このことは、受精~発生期に、短かいテロメアが相対的に効率良く伸長されたことを示唆する。5)胆道閉鎖症の治療のために生体肝移植を受けた症例のうち、供与者肝と移植肝を同時期に生検してテロメア長を解析した結果、移植肝において(供与者肝と比し)テロメア長が短縮した症例は供与者の年齢が有意に高かった。このことは、肝臓の老化が若年成人から始まることを示唆しており、テロメアが加齢現象の良いマーカーになることを示したものと言える。
3: やや遅れている
1) 正常ヒト線維芽細胞株およびウェルナー患者由来線維芽細胞株を細胞老化に至るまで継代培養し、経時的にサンプリングした。2) WS患者由来の線維芽細胞株(WRN欠失細胞)において、コントロール正常線維芽細胞との比較で(供与者年齢補正後)WS線維芽細胞の分裂能が低いこと(最大PDLが正常株より小さい)を解析株数を増やして(最終PDLまで培養し)明らかにした。3) iPS細胞樹立の技術が、Werner細胞にも援用出来るのでは無いかと考え、新たに共同研究者(東京都健康長寿医療センター研究所、老年病態チーム・血管老化テーマリーダー豊田雅士博士)との共同計画を立案し、具体的計画も作成した。研究チーム員の論文作成に傾注する時間がながかったため、本テーマの実験が予定通りに進行しなかった。しかしながら、主となって執筆した英語論文(文献#3,5)はいずれも本研究とは密接に関わり、老化現象をテロメア動態から明らかにする上で重要な成果と考える。研究実績の項でも述べたように、正常線維芽細胞のiPS細胞樹立の段階で、PDL数とトランスフォーム効率が逆比例することが示唆された。このことの確認実験を続けており、Werner細胞株を用いたiPS化実験が未実施の状態ある。本年は、この点に集中して実験を行いたい。
実験計画1)、2)に関しては引き続き遂行し、当初の作業仮説の立証に努める。特に、テロメア長定量法に関しては、Terminal restriction fragment length 解析と Q-FISH法に合わせて、Single Telomere Length Analysis (STELA) 法を導入して最小テロメア長の定量精度を上げる。2)Werner患者由来細胞では長期培養が困難なことから、研究遂行に困難を伴なった。iPS細胞樹立技術が確立されれば、研究のブレークスルーとなる可能性が高い。3)テロメア長短とリプログラミング効率の関連、不死化状態も異なる樹立株間のテロメア動態の比較検討、テロメア長の個体(細胞株)特異性(全体長、染色体別の特異性等)の保持の有無、染色体特異的脆弱性の有無等を解析する。
Werner患者由来細胞では長期培養が困難なことから、研究遂行に困難を伴なった。iPS細胞株が得られず、実験を次年度に先送りをした。26年度の実験予定に加えて、前年度予定の実験を追加する。
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