研究課題/領域番号 |
24590468
|
研究機関 | 地方独立行政法人東京都健康長寿医療センター(東京都健康長寿医療センター研究所) |
研究代表者 |
石川 直 地方独立行政法人東京都健康長寿医療センター(東京都健康長寿医療センター研究所), 東京都健康長寿医療センター研究所, 研究員 (30184485)
|
研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2016-03-31
|
キーワード | テロメア / ウェルナー症候群 / WRN遺伝子 / iPS細胞 / リプログラミング / 加齢 / 線維芽細胞 / 細胞老化 |
研究実績の概要 |
1)WS患者由来の線維芽細胞株(WRN欠失細胞)において、供与者年齢補正後の正常線維芽細胞との比較でWS線維芽細胞の分裂能が低いこと(最大PDLが正常株より小さい)を解析株数を増やして(最終PDLまで培養し)明らかにした。 2)(研究協力者豊田雅士博士らにより作製された)iPS細胞(ヒト線維芽細胞株および羊膜細胞由来)のテロメア長・染色体特異性等について、測定・検討した。リプログラム過程でテロメア伸長することが確認された。興味深いことに、細胞老化に近く染色体異常を示すMRC-5細胞株において、染色体異常をもってiPS化された細胞株で継代によりテロメアが短縮する傾向がしめされ、また伸長したテロメアの染色体パターンが親細胞のパターンと類似することが見出された。これらは、以下に述べる事実とも合わせ、リプログラム過程でのテロメア伸長の一般的な特徴であることが推測された。 (以下の2項は本課題内容とは直接関わらないものの、本研究者の所属する研究チームのヒト病態におけるテロメア動態の解析の一環として、本研究者が論文作成に直接関わり、本研究とも密接に関連するので特記する。) 3)21番染色体トリソミー(ダウン症候群)患者の新生児期のリンパ球はコントロール群と比較してテロメア長に有意に差異は認めなかった。このことは、受精~発生期に、短かいテロメアが相対的に効率良く伸長されたことを示唆する。 4)胆道閉鎖症の治療のために生体肝移植を受けた症例のうち、供与者肝と移植肝を同時期に生検してテロメア長を解析した結果、移植肝において(供与者肝と比し)テロメア長が短縮した症例は供与者の年齢が有意に高かった。また、供与者の年齢が若いほど移植予後が良好であることが示された。これらは、肝臓の老化が若年成人から始まることを示唆しており、テロメアが加齢現象の良いマーカーになることを示したものと言える。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
1)WS患者由来の線維芽細胞株(WRN欠失細胞)において、コントロール正常線維芽細胞との比較で(供与者年齢補正後)WS線維芽細胞の分裂能が低いこと(最大PDLが正常株より小さい)を解析株数を増やして(最終PDLまで培養し)明らかにした。しかしながら、多くのWRN欠失細胞が、短期間に継代不能となり、実験系を構築することが出来なかった。最近比較的継代数の大きな株が得られたので、これらを用いた実験を試みている(iPS化を含め)が、実験データをまとめるに至っていない。 2)iPS細胞樹立の技術が、Werner細胞にも援用出来るのではないかと考え、共同研究者(東京都健康長寿医療センター研究所、老年病態チーム・血管老化テーマリーダー豊田雅士博士)との共同計画を立案し、具体的計画も作成した。 研究実績の項でも述べたように、正常線維芽細胞のiPS細胞樹立の段階で、PDL数とトランスフォーム効率が逆比例することが示唆された。このことの確認実験を正常線維芽細胞を用いて続けており、Werner細胞株を用いたiPS化実験については未実施の状態ある。本年は、この点に集中して実験を行いたい。 3)テロメア長の定量解析について、新たにテロメア配列(ttaggg繰り返し配列)を含むプラスミドを合成し、テロメア長の定量化についての検討を進め、一定の成果を得た。この技法を活用したより正確な方法の樹立の途上である。
|
今後の研究の推進方策 |
1)特に、テロメア長定量法に関しては、 テロメア配列(ttaggg繰り返し配列)を含むプラスミドを合成し、テロメア長の定量化についての検討を進め、一定の成果を得た。この技法を活用したより正確なテロメア長定量方法を樹立して、最小テロメア長の定量精度を上げる。 2)Werner患者由来細胞では長期培養が困難なことから、研究遂行に困難を伴なった。新たに見いだした、比較的長期継代できる細胞株を用いて、iPS細胞の樹立に努める。Werner患者由来のiPS細胞が確立されれば、研究のブレークスルーとなる可能性が高い。 3)テロメア長短とリプログラミング効率の関連、不死化状態も異なる樹立株間のテロメア動態の比較検討、テロメア長の個体(細胞株)特異性(全体長、染色体別の特異性等)の保持の有無、染色体特異的脆弱性の有無等を引き続き解析する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
これまで、細胞老化に近づいた正常線維芽細胞株のiPS細胞を樹立しようとしてきたものの、継代早期のものに比べ著しくリプログラム効率の悪いことが判ってきた。一方、Werner患者由来細胞では長期培養が困難なこと(継代数が著しく短い)から、研究遂行に困難を伴なった。 最近、比較的長期継代出来る株を見出し、iPS細胞樹立を試みている。Werner患者由来のiPS細胞株が樹立されれば、Werner症候群研究のみならず老化研究のブレークスルーとなる可能性があることから、この研究に傾注するために、1年の研究延長とそのために必要な経費を次年度に回した。
|
次年度使用額の使用計画 |
テロメア長短とリプログラミング効率の関連、不死化状態も異なる樹立株間のテロメア動態の比較検討、テロメア長の個体(細胞株)特異性(全体長、染色体別の特異性等)の保持の有無、染色体特異的脆弱性の有無等を解析する。使用内訳としては;1)細胞培養器材.2)Southern blotting, Q-FISH, のための実験試薬等.3)学会参加旅費.4)英語論文校正料
|