研究課題
癌の発生・進展に関与する細胞内シグナル伝達の制御破綻は、主にキナーゼの活性亢進に起因するため、キナーゼを標的とした分子標的治療薬の開発・臨床応用が進んでいる。現在、gefitinib (EGFR阻害薬)やimatinib (BCR-ABL阻害薬)などキナーゼを標的とした分子標的治療薬が使用されているが、低い奏功率、副作用や耐性細胞の出現など克服すべき問題も多い。本研究では、現在問題となっている分子標的治療薬に対する耐性メカニズムを解明し、耐性解除のために有効なキナーゼ阻害薬の選定とリプロファイリングを目的とする。具体的には、ヒト脳腫瘍細胞株を用いて各種キナーゼ阻害薬に対する耐性細胞株を樹立後、各細胞株で活性化亢進しているキナーゼおよびその下流シグナル伝達経路を同定、薬剤耐性を解除するために最も効率の良いキナーゼ阻害薬を洗い出す。当該年度は、下記①~②を行った。① 分子標的治療薬(キナーゼ阻害薬)耐性獲得メカニズムの解明樹立した3種類の分子標的治療薬耐性ヒト悪性グリオーマ細胞を用いて、遺伝子プロファイリング、タンパク質プロファイリングを行い、pathway解析にて治療抵抗性獲得シグナル経路を解明した。具体的には、経時的マイクロアレイ解析およびタンパク質リン酸化解析を実施し、各耐性株間に共通する治療抵抗性獲得シグナル経路を解明した。発現量およびリン酸化量に変化が認められた分子に対しては、定量的RT-PCRおよびイムノブロッティングを行い、その信頼性を検証した。② キナーゼ阻害薬の有効性検証同定された治療抵抗性獲得シグナル経路において、重要と想定されるキナーゼの標的分子に対するFRETバイオセンサーを用いて、耐性獲得細胞におけるシグナル経路の活性化状態を検討した。さらに、治療抵抗性獲得細胞に当該キナーゼ阻害薬を処理し、治療抵抗性を解除するのに有用であるか否かを検討した。
2: おおむね順調に進展している
当該研究では、癌の発生・進展、特に現在、実臨床で大きな問題となっている癌の分子標的治療薬に対する耐性獲得メカニズムを解明し、耐性解除するために有効なキナーゼ阻害薬の選定とリプロファイリングを目的としている。平成25年度は、遺伝子プロファイリング、タンパク質プロファイリング、pathway解析を駆使することによって、治療耐性獲得をもたらす候補分子ならびにシグナル伝達経路を洗い出し、この信憑性を評価した。この結果は、実際のヒト脳腫瘍組織においても確認済みである。これらの成果は、第31回日本脳腫瘍病理学会(2013.5.24-25、東京)、第102回日本病理学会総会(2013.6.6-8、札幌)、第72回日本癌学会学術総会(2013.10.3-5、横浜)、米国分子標的治療学会(AACR-NCI- EORTC International Conference, Molecular Targets and Cancer Therapeutics, 2013.10.19-23, Boston, USA)において発表し、国内外また大手製薬メーカーから大きな反響が寄せられた。今後、マウス個体レベルでのキナーゼ阻害薬の有効性を評価し、最終的にヒト脳腫瘍の分子標的治療抵抗性を解除し得る最も効率の良いキナーゼ阻害薬を選定する。このように、当該研究の最終目的へ向けて研究は順調に進展している。
平成26年度は、下記①~②を実施予定である。① 細胞および個体レベルでの阻害薬の有効性検証平成25年度の研究により、FRETバイオセンサーにより薬剤の有効性が確認された薬剤に対して、細胞・マウス個体レベルにおいて抗腫瘍効果を検討する。この検証には、申請者らが日常的に行っている細胞増殖能、運動・浸潤能、マウスゼノグラフト、病理学的検索等を実施する。② 患者の癌特性に適合した次世代型分子標的治療薬の選定以上の結果を統合して、ヒト脳腫瘍の治療標的として最適なキナーゼ(群)、さらにはそれらを抑制し得る最も有効(高効果・低副作用)な阻害薬(分子標的治療薬)を選定する。同時に、ATP結合領域の構造に類似性が認められたキナーゼ群に関しては、それを選択的に標的とし得る新規の化合物の開発へと繋げるべく、製薬企業へ働きかけ、協議を開始する。
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