研究実績の概要 |
本研究では、免疫アジュバント [toll-like receptor(TLR)リガンド] による自然免疫シグナルの活性化を起点とした免疫系の抗がん作用について、腫瘍内に浸潤するミエロイド系免疫細胞の機能修飾の観点から解析している。本年度は、がんの成長を促進することが知られるCD11b+Gr1+ミエロイド由来抑制性細胞(myeloid-derived suppressor cells, MDSCs)が、TLR刺激に応じて、その機能を著しく変化させることを明らかにした。具体的には、以下の知見を得た。(1)RNAアジュバント(TLR3リガンド)投与による腫瘍成長の阻害効果には、樹状細胞や細胞傷害性T細胞が関与する機構とは別に、CD11b+Gr1+ MDSCsが主として関与する機構がある。TLR3-TICAM-1(TRIF)シグナル経路の活性化により、CD11b+Gr1+ MDSCsはがん細胞に対する傷害活性を獲得する。(2)Pam2リポペプチド(TLR2リガンド)の刺激は、CD11b+Gr1+ MDSCsの生存期間を延長し、細胞分化を促進する。Pam2リポペプチドによってCD11b+Gr1+ MDSCsは活性化して炎症性サイトカイン等のメディエーターを産生する。さらに、活性化したCD11b+Gr1+ MDSCsでは、免疫抑制活性すなわちT細胞の抗原特異的な増殖に対する抑制活性が著しく強まる。これらの結果から、アジュバントが活性化する自然免疫シグナル伝達経路の違いによってCD11b+Gr1+ MDSCsの機能は大きく変化し、腫瘍成長に影響を与えることが示唆された。
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