DNA メチル化の変化は、がんにおける重要なエピジェネティック変化の一つであり、遺伝子の転写活性に影響を及ぼし、がんの発生、進展に関与する。本研究では、メチル化プロモーターにおける特異的なDNA脱メチル化技術の開発により、メチル化遺伝子を簡便に探索できる手法を確立し、がんにおけるDNAメチル化を指標とする新しい早期診断バイオマーカーの探索をおこなうことを目的とした。平成26年度は、前立腺癌細胞株LNCaPに加え、大腸癌細胞株DLD1を用い、メチルCpG結合ドメイン(MBD)と5-ヒドロキシメチル化修飾酵素TET1の野生型活性ドメイン(TET1 CDwt)の融合遺伝子(MBD-TET1 CDwt)を誘導発現させる系を構築した。また、同時に、対照としてTET1の不活化ドメイン(TET1 CDmut)を繋いだ融合遺伝子(MBD-TET1 CDmut)を誘導発現させる系も構築した。これら遺伝子誘導発現系を用いた研究により、どちらの癌細胞株においても、MBD-TET1 CDwtでのみ、1)メチル化遺伝子の脱メチル化、2)メチル化遺伝子の転写再活性化、3)癌細胞の増殖抑制が引き起こされることを明らかにした。これらの結果は、これまでDNAメチル基転移酵素(DNMT)阻害剤やDNMT遺伝子の破壊によるDNMT阻害という間接的な方法でしか見ることのできなかった癌細胞におけるDNAメチル化の意義を直接的な方法で明らかにしたという点で重要な意味をもつ。また、ヒト胎児腎細胞株293Tを用いた研究により、MBD-TET1 CDwtにより発現誘導されるメチル化遺伝子は大部分がDNMT阻害剤でも発現誘導されることが明らかとなった。
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