研究実績の概要 |
代表者は、Vgf遺伝子の発現が、若齢Tgマウス膵島で野生型と比較し増加していることを新たに見いだした。Vgfはプロホルモンをコードしており、この産物は、膵β細胞の細胞死の抑制効果を有することが報告されている。代表者はまた、Tgマウスで膵β細胞のアポトーシスの亢進は認められず、β細胞の増殖が低下し、このことが同マウスの膵β細胞消失の主因であることを既に報告している(J Diabetes Investig., 2013)。Vgfの増加は、この機序の要因の一つである可能性が考えられる。 昨年度のDNA マイクロアレイ解析により、若齢Tgマウス膵島において膵前駆細胞のマーカーであるSox9の発現亢進を認めた。また、発生や分化に関わることが知られるヘッジホッグシグナル経路の因子の亢進も認められた。そこで、膵β細胞の消失が顕著な、成熟Tgマウスの膵臓を用いて、インスリンとSox9の二重免疫染色をおこなったところ、Tgマウスの膵島ではインスリン陰性且つSox9陽性の細胞が多数観察された。Tgマウスの膵β細胞では脱分化が亢進していることが考えられる。 上記を含みこれまでに得られた結果を総合すると、膵β細胞に細胞老化様の変化がおこり増殖能が低下することに加え、脱分化の亢進も、Tgマウスの膵β細胞の消失の重要な要因であることが強く示唆された。脱分化の誘導の経路の一つとして、ヘッジホッグシグナル経路が関与する可能性が考えられる。 さらに、グルカゴン遺伝子の転写に関与するFoxa1が、若齢Tgマウス膵島で発現が亢進していることも見いだした。Tgマウス膵島では膵β細胞消失に伴い、膵α細胞の細胞数の増加と分布異常とが見られることを既に報告している(J Diabetes Investig., 2013)。Tgマウス膵島で増加する膵α細胞は、脱分化β細胞が分化転換したものに由来する可能性が強く示唆される。
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