前立腺がんは主に男性ホルモン(アンドロゲン)によって増殖が制御され、アンドロゲンを除去する(ホルモン療法)ことにより大部分の前立腺がんはアポトーシスを来すことが知られている。臨床的には前立腺がんに対してホルモン療法により一定の治療効果が認められるが、ほとんどの症例はホルモン療法に耐性となり(去勢抵抗性前立腺がん)、やがてがんは進行する。しかし、去勢抵抗性前立腺がんの発症機序には不明な点が多い。 最近の研究ではアンドロゲン除去後においても腫瘍組織内のアンドロゲン濃度は維持されており、核内転写因子として働くアンドロゲンレセプターも活性化されていることがわかってきた。さらに、精巣や副腎などのアンドロゲンに依存しない、腫瘍による内因性のアンドロゲン合成機構の存在も明らかとなってきている。 我々は脂質代謝酵素のひとつであるLong chain acyl-CoA synthase 3 (ACSL3)がアンドロゲン応答性のある酵素であり、ヒト前立腺がん細胞株と前立腺がん組織において高発現していることを認めた。また、ホルモン療法に耐性を示す前立腺がん細胞株においてもACSL3の顕著な発現亢進が見られた。ACSL3の強制過剰発現細胞では内因性ステロイド合成系遺伝子の発現が亢進し、逆にACSL3の発現を抑制するとそれらが低下した。ACSL3による内因性ステロイド合成系遺伝子群の制御メカニズムとして、acyl-CoAにより活性化されるある転写因子に着目した。この転写因子の発現を抑制したところ、内因性ステロイド合成系遺伝子の発現が低下した。以上から、去勢抵抗性前立腺がんの発症機序として、ACSL3の発現亢進による内因性のアンドロゲン合成の活性化が関わっていることが考えられた。
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