研究課題
Cyclin D1b トランスジェニック(Tg)マウスの直腸腫瘍発生機構の解析を行い前年度までにこのTgマウスでは雌の約63%に直腸腫瘍を発生すること、さらのその53%では腺癌(Adenocarcinoma)を伴っていることを明らかにしてきた。今年度はその分子機構の詳細な解析を行い以下の成果を得た。(1)癌化に関わる様々なシグナル伝達経路や癌関連遺伝子の変化を検討したところ、これらの直腸腫瘍ではMEKを介さずにErkが活性化されていることを見いだした。また、腫瘍ではAktも活性化されていた。(2)293T細胞にCyclinD1bをtransfectionで発現させるとErkとAktが活性化されたがMEKは活性化されなかった。(3)この293T細胞におけるcyclin D1b transfectionの際にAkt 阻害剤を処理するとMEKの活性には影響を与えずにErkの活性化が抑制された。(4) Cyclin D1b-Tgマウスに発生した直腸腫瘍由来の癌細胞株D1bTgRTにAkt阻害剤を処理するとMEKを阻害することなしにErkの活性が阻害された。(5)D1bTgRT細胞株はヌードマウスで腫瘍を形成するがこの腫瘍形成はAkt阻害剤によって抑制された。以上の結果から、cyclin D1bはAktの活性化を介してErkを活性化していること、またAktの阻害が腫瘍形成の抑制に重要であることがわかった。
2: おおむね順調に進展している
Cyclin D1b トランスジェニック(Tg)マウスの直腸腫瘍発生の分子機構の解析を行い、cyclin D1bはAktを介して細胞増殖に需要な役割をはたすErkを活性化することを明らかにした。Aktは細胞増殖だけでなくアポトーシスの抑制や転移浸潤にも関与する多機能のシグナル分子であることから腫瘍抑制の標的として重要である。我々の実験系でもAkt阻害剤がD1b発現腫瘍細胞株の造腫瘍性を抑制しうることを明らかにした。これらの結果は、研究目的にあげた直腸癌発生の新しいモデル動物の確立とこの実験系を用いたcyclin D1bの癌発生における役割、発症病理、分子機構の解明という観点から、研究が順調に進展していると評価できる。さらに標的分子の検索と治療への応用という点からも進捗が見られたと考えている。
今後はこれまでの成果を踏まえて下記のような方針で研究を進めてゆく。(1) cyclin D1bの直接の標的分子の検索とD1bからAkt-Erk活性化の経路に関わる因子とその分子メカニズムをさらに詳細に解明する。(2) 雌特異的腫瘍形成のメカニズムを明らかにするためにエストロゲン受容体発現Tgマウスとの交配を行いその効果を検討する。(3) また、エストロゲンの拮抗剤であるタモキシフェンの腫瘍形成に対する腫瘍抑制効果を検討する。さらに、Akt阻害剤とタモキシフェンの腫瘍抑制に対する相乗効果を検討する。(4) 消化器癌を中心に様々なヒト癌組織、細胞株におけるcyclin D1bの発現を検討し、発現癌細胞株についてはD1b-siRNA, Akt 阻害剤などの効果を検討する。
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Carcinogenesis
巻: 35 ページ: 227-236
doi:10.1093/carcin/bgt293