研究課題/領域番号 |
24590487
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研究機関 | 京都府立医科大学 |
研究代表者 |
田中 秀央 京都府立医科大学, 医学(系)研究科(研究院), 准教授 (60236619)
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研究分担者 |
足達 哲也 神戸大学, その他部局等, 准教授 (60345014)
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キーワード | 心房細動 / 線維化 / ギャップ結合 / カルシウム / カルシウムオルタナンス |
研究概要 |
本研究では、線維化した心房組織の機械的歪みが心房細動の発生に関わっているか否かを明らかにするために、ラットの摘出灌流心に心房細動を誘発し、心房内の興奮伝導様式の解析から細動の発生起源を同定、同部に有意な線維化があるか否かを検討するとともに、同部の心筋細胞内カルシウムの共焦点蛍光イメージングにより興奮収縮様式を解析する。これまで誘発した心房細動の興奮伝導様式から、1)その発生起源が左心房後壁と心房中隔を含む左心房天蓋部にあること、心房の組織学的検討から、2)左心房天蓋部は他の心房領域に比して有意に心筋細胞密度が低く相対的に線維成分が多いこと、3)心房筋細胞の走行が多様であること、4)心筋細胞間の伝導に関わるギャップ結合蛋白質コネキシン43の分布が多様であることを見出した。さらに高速共焦点顕微鏡による心房筋細胞のカルシウム動態解析では、心房筋は低頻度興奮時には細胞内・細胞間で時間的・空間的に均一なカルシウムトランジェントを示したのに対し、高頻度の興奮時には個々の細胞内でカルシウム波が発生、細胞間でカルシウム動態が非同期化し、しばしば一拍毎に交代するオルタナンス現象が観察されるなど、心房組織内でカルシウム動態が不均一化した。これらの結果から心房では、高頻度の興奮に伴って筋小胞体からのカルシウムの放出が不完全になり、その結果心房に不均一な収縮をもたらす可能性が示唆された。線維化の顕著な心房組織では、心房筋細胞のカルシウム動態や収縮性の不均一性がより一層顕著になり、その結果心房細動の易発生性が高まる可能性が示唆される。心房に線維化が生じやすいとされている加齢心やストレプトゾトシン誘発糖尿病のラット心に対し心房細動の誘発を試みたが、これまでのところ細動の易誘発性の有意な上昇や線維化の増強は見いだせていない。この点について今後さらに検討が必要である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
心房細動の巨視的な興奮伝導様式と組織学的解析から、心房細動の発生に心房局所の線維化が関与している可能性が明らかになった。また心房の細胞レベルの興奮様式をカルシウム動態から可視化することに成功、心房細動様の高頻度興奮下には時間的空間的に不均一なカルシウム動態を示すことが明らかになり、心房内の機械的歪みが顕在化する可能性が示唆されたものと考える。但し予定していた心房内の心筋・線維化組織間の歪みの関与については、加齢や薬剤誘発糖尿病では十分な線維化組織を作成することが困難であり、心房細動の誘発性は高まっていない。モデルの再考を要する。
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今後の研究の推進方策 |
健常心を用いての心房細動の発生基盤の検討は概ね終了した。加齢心や薬剤誘発糖尿病心では心房細動につながるような有意な線維化の作成や心房細動誘発率の向上が困難であったことから、今後は人為的に心房に傷害を与えることにより線維化を惹起し機械的歪みが生じやすくなるモデルを作成し、仮説の検証を行う。具体的にはラットを全身麻酔・開胸下に心房局所に凍結傷害や切開により一定の傷害を与えることにより線維化巣を作成し、これまでと同様、摘出灌流心を用いて興奮伝導様式の解析や組織・細胞レベルのカルシウム動態解析を行う。これにより、健常心筋組織と線維化組織の間で生じる興奮伝導様式の変化やカルシウム動態異常を解析する。
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