研究課題
心房の線維化組織と心筋細胞との間に生じる不均一な機械的歪み(ストレイン)が、心房細動の発生に重要な役割を演じている可能性を明らかにするために、初年度には摘出灌流したラットの心臓を用いて心房細動を誘発、その発生源に線維成分が多いこと、ギャップ結合蛋白質コネキシン43が発現異常を示すことを見出し、次年度には心房筋のカルシウム動態の不均一性から細胞間の不均一な機械的収縮(機械的歪み、ストレイン)が不整脈の発生に関わっている可能性を見出した。最終年度には、機械的歪みが実際に不整脈を起こしやすいか否かを心房に線維化が生じやすいとされる加齢ラットやストレプトゾトシン誘発糖尿病ラットの摘出灌流心を用いて心房細動の誘発を試みた。しかしながらいずれのモデルも健常心と比べて線維化の増強や細動の易誘発性に有意な差異は見出せなかった。そこでマウスの冠動脈を結紮し心筋梗塞を作成、3-4日目の心筋組織と線維組織とが接合する境界部組織における興奮伝導様式と心室筋のカルシウム動態を観察した。その結果、梗塞心では伝導速度が有意に低下し、梗塞境界部では不均一なカルシウム動態が生じ易いことが明らかになった。これらの結果から、梗塞などによって心筋が脱落した後に形成される豊富な線維性組織と残存した心筋とが結合すると不均一なカルシウム動態を示し、さらにこれが不均一な収縮をもたらし機械的歪みを招来する可能性が示唆された。以上、心房細動の発生における心筋の機械的歪みの関与を支持する直接的な証拠は得られなかったが、線維成分の多い心房組織では恐らく心筋・間質間に生じる機械的結合が心房の収縮・拡張機能に歪みをもたらし、不整脈の原因となる可能性があると考える。
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