研究課題/領域番号 |
24590491
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 順天堂大学 |
研究代表者 |
広瀬 幸子 順天堂大学, 医学部, 准教授 (00127127)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 疾患モデル / 関節リウマチ / 全身性エリテマトーデス / FcγRIIB / 素因遺伝子 |
研究概要 |
FcγRIIBは代表的B細胞活性化抑制分子で、その発現低下はB細胞を活性化し、自己抗体産生を招いて自己免疫疾患を誘発する可能性がある。我々は、129マウスES細胞を用いてFcγRIIB遺伝子を欠損させ、B6マウスに戻し交配してFcγRIIB欠損B6マウス系(KO1)を樹立した。このKO1マウスの病態観察の結果、全身の関節変形を伴う高度の関節リウマチ(RA)が自然発症した。 本年度は、RA発症KO1マウスに、自己免疫病態を増悪させることで知られるYaa(Y chromosome-linked autoimmune acceleration)変異遺伝子を導入して病態の解析を行った。KO1.Yaaマウスでは、驚いたことにRAの発症は抑制され、代わりに生後早期から高度のループス腎炎を伴う全身性エリテマトーデス(SLE)が発症した。そこでRAからSLEへの病態の転換に関わる要因を細胞・分子レベルで解析した結果、IL-21およびIL-10産生CD4陽性T細胞の活性化が関与する可能性を得た。近年、IL-21はSLE発症に関わることが示されている。一方で、IL-10はB細胞を活性化するという免疫反応に対する正の効果とともに、炎症局所のマクロファージによる炎症性サイトカインの産生を抑制するという負の効果を有しており、この負の効果がRAを抑制した可能性がある。 本解析から、KO1マウスはRAおよびSLEの両病態の素因をもち、その病態はサイトカインの環境により左右される可能性が示唆された。RAとSLEは、臨床的に異なる病態を呈する疾患であるが、いずれもB細胞の免疫寛容破綻による自己抗体産生という共通の素因が存在しており、疾患特異性を決定する要因が注目されている。KO1マウス系は、RAとSLEに共通の病因、および疾患特異的病因を明らかにするために、極めて有用なモデル系である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
RAとSLEはいずれも自己抗体産生とその結果生じる免疫複合体の組織沈着によって 惹起される炎症性自己免疫疾患であるが、病変部位が異なり、臨床症状も異なっている。疾患特異性が生じる原因は, 古くからの研究対象であるが、その詳細は未だ明らかではない。我々のRA発症KO1マウスはこの課題を解決する最適なモデル系である。 このような観点から行った、KO1マウスにYaa変異遺伝子を導入した本年度の解析結果から、KO1マウス系にはRAとSLEに共通の発症要因が存在し、最終的な病態の決定には、サイトカインの異なる環境が関与している可能性を得た。サイトカイン環境は感染などの様々な生活環境で左右されることが知られており、また最近では腸内細菌がサイトカイン環境を左右することが指摘されている。注目されるのは、YaaはウイルスRNAに対する受容体TLR7の過剰発現をきたす変異遺伝子であることから、ウイルス感染による自然免疫系の活性化が病態の特異性を変える可能性が強く示唆された点である。
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今後の研究の推進方策 |
本年度の解析から、RA自然発症KO1マウスにYaa変異遺伝子を導入するとRAは抑制され高度のSLEが発症することが判明したが、正常B6マウスにYaa変異遺伝子を導入してもSLEの発症は見られない。従って、KO1マウスにはRAおよびSLEの両疾患に共通の素因が存在している。 共通素因として最も可能性のある要因は、B細胞活性化抑制分子FcγRIIBの遺伝子欠損であり、さらに、この欠損遺伝子の下流に、遺伝子欠損操作の際に用いた129マウスES細胞から持ち込まれた約6.3 Mbの129マウス由来のSle16領域である。Sle16領域にはSLE感受性候補遺伝子として報告されている、インターフェロン関連遺伝子、SLAM (signaling lymphocyte activation molecule) family遺伝子群、Fcgr3遺伝子が存在しているため、これらの領域を分離してもつコンジェニックマウス系の作製により、各々の領域のRAおよびSLEにおける役割を明らかにする。 これに加えて、FcγRIIB遺伝子欠損による病態への影響を、細胞特異的にFcγRIIB分子の発現を欠損するマウス系を作製して解析する。すなわち、FcγRIIBは代表的なB細胞活性化抑制分子であるが、B細胞のみでなく、単球/マクロファージ系細胞や抗原提示樹状細胞上にも発現しており、これらの細胞の活性化を抑制する。免疫複合体の沈着により惹起される炎症反応には、単球/マクロファージ系細胞の関与が重要である。従って、FcγRIIB発現欠損によるB細胞の活性化のみで、自己免疫性の炎症反応が説明できるか否かは不明であり、細胞特異的にFcγRIIB発現欠損するコンディショナルKOマウスの作製により、FcγRIIB発現欠損効果を個別に解析する。
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次年度の研究費の使用計画 |
研究費は、①マウスの作製・維持および繁殖のための費用(RA感受性遺伝子解析のために、遺伝子領域に組換えを起こさせたマウス系の樹立および細胞特異的にFcγRIIB発現欠損するコンディショナルKOマウスの作製費用)、②遺伝子型判定およびmRNA解析のための試薬費(DNA・RNA抽出のための試薬、PCRに要する試薬および理化学器材およびプライマー合成費)、③免疫細胞の解析にかかる費用(Flow cytometry解析、免疫組織化学的解析のための抗体の購入費)、④成果の公表に要する費用(原著論文の投稿費および掲載にかかる印刷費、日本免疫学会学術集会および日本リウマチ学会への参加費および旅費)に充当する。
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