研究課題
我々は、抑制性IgG Fc受容体FcγRIIBをコードする遺伝子を欠損させたB6マウス(KO1と命名)に、ヒト関節リウマチ(RA)に近似した全身の多発関節炎を自然発症することを見出している。前年度、KO1に自己免疫促進遺伝子Yaaを導入すると、RAは抑制され、代わりに高度のループス腎炎が発症することを見出した。本年度は、以下の解析を行なった。1)細胞特異的FcγRIIB発現欠損マウス系の樹立:B細胞、樹状細胞、マクロファージ系細胞特異的にFcγRIIB発現を欠損するマウス系にYaa遺伝子を導入し、ループス腎炎発症に係る細胞群の同定を進めている。2)RAおよびループス腎炎発症に係る素因遺伝子のゲノムワイド解析:KO1マウスとNZWマウスを交配したF1マウスでは、RA発症は見られず高度のループス腎炎が発症した。そこで、RAおよびループス腎炎発症に関与する疾患共通遺伝子および疾患特異的遺伝子をゲノムワイドに解析する目的で(KO1 x NZW) x KO1 退交配マウスを約200匹作製して病態を解析した。その結果、無症状マウスが54%、RA発症マウスが32%、ループス腎炎発症マウスが11%、両疾患発症マウスが3%の比率で認められた。現在、疾患素因遺伝子のマッピングを行なっている。3)KO1マウスの関節炎発症機序の解析: KO1マウスにTNFαあるいはIL-17の遺伝子欠損を導入し、関節炎への影響を解析した。その結果、TNFα欠損KO1マウスでは関節炎は完全に抑制されたが、IL-17欠損KO1マウスでは予想に反して抑制効果は全く認められなかった。TNFα欠損KO1マウスの関節炎の抑制には、破骨前駆細胞が含まれる末梢血単球の比率の低下、関節局所におけるMCP-1発現抑制と炎症局所への末梢血単球の移行頻度の減少、破骨に係るRANKL/OPG比率亢進の抑制が関与していた。
1: 当初の計画以上に進展している
ループス腎炎を特徴とする全身性エリテマトーデス(SLE)は、RAと同様に自己抗体産生とその結果生じる免疫複合体の組織沈着によって惹起される炎症性自己免疫疾患であるが、病変部位が異なり、臨床症状も異なっている。疾患特異性が生じる原因の詳細は未だ明らかではない。我々のFcγRIIB欠損KO1マウスはRAを自然発症し、Yaa遺伝子導入あるいはNZWマウスと交配することで、RAがSLEに変換することから、KO1マウスは両疾患に共通する遺伝要因に加えて、疾患特異的な遺伝要因を持つと考えられ、疾患特異性の決定要因を解明する最適なモデル系であると考えられる。正常 B6マウスにYaa遺伝子を導入してもSLEは発症しないが、FcγRIIB欠損マウスにYaa変異遺伝子を導入すると高度のSLEが発症するので、FcγRIIB発現欠損はRAとSLEに共通の遺伝要因の1つである。細胞特異的にFcγRIIB発現を欠損するマウス系の樹立により、B細胞におけるFcγRIIB発現欠損のみではYaa遺伝子を導入しても高度のSLEは発症しないという可能性を得ている。従って、B細胞以外の細胞でのFcγRIIB発現欠損が重要であり、その細胞の同定が期待される。IL-17シグナル抑制はSLEを抑制すると報告されているが、KO1マウスのRAは抑制されない。関与する炎症性サイトカインの差異の解析は、両疾患の発症機序の違いを探る手がかりとなる。
RA自然発症KO1マウスは129マウス由来のES細胞を用いてB細胞活性化抑制分子FcγRIIBの遺伝子を欠損させ、B6マウスに戻し交配して得たマウス系であり、この欠損遺伝子の下流には129マウスES細胞から持ち込まれた約6.3 MbのSle16領域が持ち込まれている。Sle16領域にはSLE感受性候補遺伝子として報告されている、インターフェロン関連遺伝子、SLAM (signaling lymphocyte activation molecule) family遺伝子群、Fcgr3遺伝子が存在しているため、これらの領域を分離してもつコンジェニックマウス系の作製を次年度も継続して行ない、各々の領域のRAおよびSLEにおける役割を明らかにする。現在行なっている、細胞特異的にFcγRIIB分子の発現を欠損させたマウス系にYaa遺伝子を導入したマウス系の病態解析の実験を継続して行ない、B細胞、単球/マクロファージ系細胞、抗原提示樹状細胞におけるFcγRIIB発現欠損のSLE発症における役割を個別に明らかにする。ヒトRAで注目されている抗IL-6受容体抗体投与による関節炎の抑制効果が、KO1マウスの関節炎でも認められるかを、抗マウスIL-6受容体抗体投与により検証する。
すべて 2014 2013
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 1件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (10件) 図書 (1件)
Mod. Rheumatol.
巻: 24 ページ: 931-938
DOI:10.3109/14397595. 2014.886351
J. Immunol.
巻: 190 ページ: 5436-5445
10.4049/jimmunol.1203576