研究課題/領域番号 |
24590492
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 近畿大学 |
研究代表者 |
伊藤 彰彦 近畿大学, 医学部, 教授 (80273647)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 接着分子 / 神経-マスト細胞相互作用 / 神経源性炎症 |
研究概要 |
精神的なストレスが発病や諸症状の悪化に深く関わるストレス関連疾患(アトピー性皮膚炎や過敏性腸症候群等)では、罹患部(皮膚・大腸粘膜)において知覚・交感神経に接するマスト細胞数の増加が知られている。本研究課題の目的は、ストレス関連疾患の病態形成に関与する分子・細胞基盤の一端を明らかにすることであり、そのために具体的には以下の2つの研究を行う。(1)神経-マスト細胞相互作用を媒介するIgCAM型接着分子CADM1に注目し、実験病理学的な手法により罹患部のマスト細胞における疾患特異的なCADM1発現の実態(発現レベル、スプライシング・アイソフォームの変化)を明らかにする。(2)次いで、この発現実態を培養マスト細胞において再現し、神経との共生培養により、疾患特異的なCADM1発現と神経‐マスト細胞相互作用(接着力と刺激伝達)増強との因果関係を明らかにする。 平成24年度においては、ストレス関連疾患の代表例であるアトピー性皮膚炎のマウスモデルを用いて、その病変内に存在するマスト細胞をレーザーマイクロダイセクション法により選択的に採取し、全RNAを抽出することに成功した。そのRNAを定量的RT-PCR法に供し、非罹患部マスト細胞との比較によって、アトピー性皮膚炎の病変内に存在するマスト細胞においては、CADM1の発現レベルが有意に上昇していることを見出した。次いで、この高発現の実態を培養系のマスト細胞において再現し、神経細胞(交感神経及び知覚神経)と共生培養した。神経突起に接着するマスト細胞の接着力を力学的に解析するとともに、神経からマスト細胞への刺激伝達の効率を定量化した。その結果、アトピー性皮膚炎の病変内に存在するマスト細胞におけるCADM1の発現上昇が神経‐マスト細胞間の相互作用を増強していることが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
「研究実績の概要」に記載した平成24年度の成果は、「研究実施計画」の内容によく呼応するものであり、研究の達成度について、「おおむね順調」と自己評価した。 本成果は、学術的に高く評価され、「British Journal of Dermatology」に掲載された。(本雑誌は皮膚科領域で上位にランクされるジャーナルです。)
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今後の研究の推進方策 |
当初の「研究実施計画」に従って今後も研究を推進していく方針である。 平成24年度の成果ではCADM1の発現解析がRNAレベルにとどまったが、今後は蛋白レベルでの解析も並行して行っていきたい。そのためには実験手法の技術的な改良に取り組む必要があると考えている。 さらに、ストレス関連疾患(アトピー性皮膚炎や過敏性腸症候群等)のヒトの病理検体を用いた実験にも着手する予定である。マウスモデルと異なり、RNA、蛋白ともに採取量に限りがあるので、実験手法に関してマウスモデルで十分に検討し、技術的な裏付けを得る必要があると考えている。
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次年度の研究費の使用計画 |
(1)薬品・消耗品の主たるものとしては、細胞培養用試薬(仔牛血清、各種成長因子、抗生剤など)、プラスチック器具(培養ディッシュ、コニカル遠心チューブ、微量遠心チューブなど)、分子生物学的実験試薬(RNA抽出キット、逆転写酵素、mRNA増幅キット、PCR試薬・酵素、各種抗体など)が挙げられる。また本研究に特異的なものとして、レーザーマイクロダイセクション関連消耗品(メンブレンスライド、アイソレーションキャップなど)がある。本研究遂行中には月当たりに換算して10万円程度の経費が必要と見積もっている。 (2)実験動物は、初代培養マスト細胞の樹立のために必要に応じて野生型マウス(C57BL/6)及びCADM1ノックアウトマウスの購入を予定している。 (3)本研究課題に関する最新情報の交換や共同研究、試料採取・分与のために、奈良県立医科大学、大阪大学微生物病研究所、奈良先端科学技術大学院大学などへの訪問を予定している。また、日本病理学会総会、日本アレルギー学会総会などでの研究成果発表を予定している。それらの旅費を計上する。 (4)研究成果は学術論文としても公表する。その経費を計上する。
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