研究課題
精神的なストレスが発病や諸症状の悪化に深く関わるストレス関連疾患(アトピー性皮膚炎や過敏性腸症候群等)では、罹患部(皮膚・大腸粘膜)において知覚・交感神経に接するマスト細胞数の増加が知られている。本研究課題の目的は、ストレス関連疾患の病態形成に関与する分子・細胞基盤の一端を明らかにすることであり、そのために具体的には以下の2つの研究を行う。(1)神経-マスト細胞相互作用を媒介するIgCAM型接着分子CADM1に注目し、実験病理学的な手法により罹患部のマスト細胞における疾患特異的なCADM1発現の実態(発現レベル、スプライシング・アイソフォームの変化)を明らかにする。(2)次いで、この発現実態を培養マスト細胞において再現し、神経との共生培養により、疾患特異的なCADM1発現と神経‐マスト細胞相互作用(接着力と刺激伝達)増強との因果関係を明らかにする。平成24年度には、アトピー性皮膚炎マウスモデルの病変内に存在するマスト細胞においてCADM1の発現レベルが有意に上昇していることを明らかにし、その結果として、アトピー性皮膚炎の病変内では神経‐マスト細胞間の相互作用が増強していることを示した。平成25年度においては、(1)独自に開発したフェムト秒レーザー照射による細胞間接着力測定法を神経‐マスト細胞共生培養系に適用して、神経‐マスト細胞間の接着が経時的にどのように変化するかを調べた。日単位の時間経過とともに接着力の弱いマスト細胞の集団と強い集団の2つが出現するとわかった(学会発表)。(2)過敏性腸症候群症例の大腸生検検体を病理学的に解析した。健常大腸に比し、粘膜内のマスト細胞数が増加していること、及び粘膜内の神経線維におけるCADM1の発現が増強していることを見出した(今後発表予定)。
2: おおむね順調に進展している
「研究実績の概要」に記載した平成24年度・25年度の成果は、「研究実施計画」の内容によく呼応するものであり、研究の達成度について、「おおむね順調」と自己評価した。平成24年度の成果は、「British Journal of Dermatology」に掲載された。平成25年度の成果は、一部学会発表したが、論文公表には至っておらず、現在投稿準備中である。
基本的には、当初の「研究実施計画」に従って今後も研究を推進していく方針である。今日までの成果を踏まえて、今後の大きな柱は次の2つである。(1)神経‐マスト細胞共生培養系で明らかとなったマスト細胞の接着力の経時的変化が分子病態学的にどのような意義を持つのか解析する。(2)過敏性腸症候群の生検検体を中心とする臨床病理検体を解析し、CADM1によって媒介される神経‐マスト細胞相互作用が臨床病態学的にどのような機序でどのような意義を持つのか明らかにする。現在までに得られている研究成果については、論理的なまとまりを担保する若干の実験を追加するなどして、論文発表するよう努力する。
当初の作業仮説は、ストレス関連疾患(アトピー性皮膚炎や過敏性腸症候群)では接着分子CADM1のスプライシングに変化が生じているというものであったが、この仮説を支持する実験データが十分に得られなかったため、外注実験などの一部の実験計画を中止したため。ストレス関連疾患(アトピー性皮膚炎や過敏性腸症候群など)病変におけるCADM1の発現解析を進めた結果、疾患病態形成に関わる分子イベントとして、CADM1の転写後調節が見出されてきた。その1つは、細胞外ドメインの酵素的切断(shedding)である。今後、sheddingの機能的意義を調べるため、shedding産物特異的な抗体の作製や発現ベクターの作出を予定している。
すべて 2014 2013 その他
すべて 雑誌論文 (6件) (うち査読あり 6件、 オープンアクセス 1件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (5件) (うち招待講演 1件) 備考 (1件)
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